運命的なかけがえのない人

屋敷に戻って来ると、ヘンリーとの会話を父と兄に話した。


「そのような危うい話........。殿下も軽率な。だが、次期王になられるカルロ様も同じ思想であれば、確かにメッツォは変わっていくだろうな」

「ええ。私たちの結婚もメッツォが変わる象徴のようなものだとおっしゃったわ」


ルイーズはちょっと大げさに伝えた。


「象徴?受爵させようと考えている時点で、新しい価値観とは言えないのではないか?」

「私が言うのもなんですが、能力を持つ者が認められる世の中になるならば、私は悪いとは思いません。殿下も実力を示せ、とおっしゃいました。私はこれから懸命にやるだけです」

「私は爵位もない者にどうしても娘をやるわけにはいかん。だから、殿下のお眼鏡にかなうようにやるのだな」


レルルスは頭を父に下げた。


「私は、必ずやります」

「ちなみに、君が頑張るのは音楽家になるためか、ルイーズのためか?」

「両方です。どちらもなければ私の人生は成り立ちません」

「そうだな……励めよ」


隣で黙って聞いていた兄は、レウルスをじっと見ていたが口を開いた。


「僕の妹はとても頑張り屋だ。そして不器用だ。僕が見たところ、君もだいぶ不器用に感じる。このチャンスはルイーズを大事に思う殿下や私たちがいることで得られたものだ。必ず、期待に応えてくれよ」


兄がとても真面目に言ったのだった。


「はい、必ず」

「私も……音楽家としてメッツォでやれることをやるわ。お父様、さっそく新しい企画をして頂けないかしら?」

「ああ、もちろんだ」


話がまとまると男性陣は例のごとく酒で乾杯となったのだった。


………数日後、レウルスはボロゴ楽団での面接と試験を受けた。ヘンリー王子による紹介ではあったが、ボロゴに在籍するかもしれない以上、審査は厳しく行われたようだ。


今は、ボロゴでチェリストを務めているミコラーシュの側でしごかれている。


ルイーズは、せっかくならばと、マティアスのクラシックギターとセッションをしてみたいと思い立った。


ちなみに、クレメンテとのアンサンブルは、彼が要注意人物になったことで見送られることになってしまっていた。


「私、初めてマティアスのクラシックギターを聴いた時に、涙が出たのよ」

「初めてってウイナ音楽院に招かれて演奏した時のことかな?」

「そうよ。2年前はこういうきっかけで、あなたと組むことになると思わなかったけれど」


ウイナ音楽院で過ごした当時の思い出が鮮やかに思い出された。


「僕もだよ。僕はディートマル人だけど、大丈夫かな?」

「あなたがなにかを言ったわけではないし、大丈夫よ。お父様も説得したし心配はいらないわ」


ルイーズは、マティアスはデュオを組む許可を父たちから得たのだった。


父と兄はルイーズに被害が及ぶのではと心配したが、彼のクラシックギターの演奏を聴かせて説得した。感傷的な旋律が好きな父は感動した様子だった。


「前も言ったけど、メッツォ人は情緒的な音色がとても好きよ。あなたのクラシックギターはきっと話題になるわ」

「だといいな。僕もクリスティアン様のイメージを少しでも良くしたいから頑張るよ」


クレメンテとクリスティアンが城に呼ばれて注意勧告されたのは、新聞に載ったから国民が知っている。彼らは共に“C”から始まる名前なので、“CC”などと呼ばれていた。


(なんだかCCなどと呼ばれていると、彼らが恋人同士みたい。マティアスからしたら面白くないでしょうね)


「クリスティアンのためにも私もがんばるわ」


...............穏やかなマティアスとのセッションはとてもやりやすかった。


マティアスは人の演奏に合わせるのがとても上手だった。今まで、幾人もの人とセッションを経験してきたから慣れているようだ。


「マティアス、さっそく王城で披露の場ができたわ。ヘンリー様がお兄様から私たちのデュオ結成の話を聞いて呼んでくださったの」

「え、いきなり王族の前で披露するのかい!?」

「願ってもいないチャンスだわ。彼らが良いと判断すればやがて貴族にも広まり、一般の人にも支持されるようになるはずよ」

「それは魅力的だね」


王たちの前で演奏するのは数年ぶりだ。自分がヘンリーの婚約者だった時とは違って、プロとしての演奏を披露しなければならない。


夜、屋敷に戻って来たレウルスと近況を伝え合った。


「そちらも忙しいのだな。ここが踏ん張り時だな」

「ええ。皆の未来のためにやらなければ」

「そう言われると、とても壮大なことを成し遂げようとしている気がしてくる」

「実際、そうだわ。音楽を通してメッツォを少しずつ変えようとしているのよ」

「まさか、こんなことになるとは」

「本当ね」


数年前までは想像もしないことが起きていた。


レウルスがルイーズの手の上に自分の手を重ねる。


「オレたちの出会いが世の中を変えることにつながるとは」

「そうね。彼らがメッツォに来たのも私たちがいたからだわ。私たち、運命の出会いだったのかも」


レウルスがルイーズの顔に触れると、キスをした。ルイーズも気分が高ぶって腕を首に回す。


「.......コホン!まだ、結婚してはいないはずだが??」


たまたま通りかかった兄に見られた。


「妹のそういう場面を見るのは気恥ずかしい........」


兄はブツブツ言いながら去って行った。


「.........屋敷内は気を付けなければいけなかったわね」


2人して微笑んだのであった。

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