ヘンリー王子の真意

ヘンリーの大胆な発言にルイーズたち驚いていた。


「ヘンリー様の考えはとても……素晴らしいと思うわ。だって、いつだって時代は変化していくものだもの。でも、その考えは秘めたものにしておかなければ、ヘンリー様が危険だわ」

「心配してくれなくても大丈夫だ。ちなみに、オレがルイーズではなく、リリアンを選んだのにもそういう気持ちが少なからずあった」


(リリアンを選んだ理由?初めて聞くわ)


「リリアンは既存の価値観なんてぶっ壊す女だったからな」


彼がそんなふうに考えているとは思わなかった。


「私、ヘンリー様がなにを考えているのかをもっと知るべきだった思うわ。本当にごめんなさい」

「いいんだ。オレも素直ではなかったから。.........それよりもそんなことを言うから、レウルスがヘンな顔をしている」


隣に座るレウルスが眉間にシワを寄せていた。


「おい、そんな顔をするな。昔は昔、今は今だ」

「殿下の言葉に反する気持ちなど一切ありません……」


そう言う割に彼の表情はまだ硬いままだった。


「ところでレウルス、お前はどれくらいルイーズに本気なんだ?」


いきなりドキッとするような質問をヘンリーがする。


「夫婦になりたい、そう思っています」

「本気なんだな?」

「はい、それはもちろん。トリアに行って彼女への気持ちに気付いてから……ずっと、彼女の側に立つにはどうすればいいかと考えてきました」

「お前は男爵家の次男だな。このままだと爵位も無いわけだが」

「そうなのです。だから、ルイーズの父に認めてもらうにはどうしたら良いかと常に悩んでいます」

「お前のチェロの腕前は評価されていて相当なものだ。………ボロゴ楽団でチェロの空きが出そうだが、どうする?」


思いもしない言葉にルイーズたちは驚いた。


「あのボロゴで空きが出るというのですか?」

「そうだ。まだ、知られていない話だがな。ボロゴのチェリストがそろそろ次の若い者に、と考えているとこの前、聞いたばかりだ」

「私にチャンスを下さるのですか?」

「ルイーズはオレの親友であり、大事な人だ。彼女が構わなければ、側室に迎えたいぐらいにな」

「なんですと!?」


レウルスが立ち上がった。


「座れ。冗談だ。そんなことをしたらオレがリリアンに殺される」

「言っていい冗談と良くない冗談があります……」

「その冗談はやめましょう、と言ったでしょう?」


ついルイーズが言うと、レウルスがキッとこちらを見た。


「以前にも出た話なのか?殿下は本気で言われているのか?」

「今は冗談だと言っただろう。以前言った時は本気だったが、断られた。オレは無理やり、側におくつもりはない」

「そうでなければ困ります!」


レウルスがひざをグッと掴んでいる。


「話が妙な方向へと行ってしまったが、元に戻すぞ。……お前が本気ならば、オレはお前を次期ボロゴのチェリストとして推してやる。試験を受けてもらうが、お前なら大丈夫だろう?」

「必ず、期待に応えます!」

「そうしろ。国を代表するボロゴで活動をするということは、国に貢献するということになる。そうしたら、お前はいずれ受爵できるようになるだろう」


ヘンリーの考えを聞いたレウルスは驚きのあまり目を見開いた。ルイーズも口に手を当てる。


「......本気でおっしゃられているのですか?」

「本気だ。だから、この部屋には3人のほかに誰もいないだろ?」

「......ヘンリー様、今の考えはとても私たちにとっては夢のようですけれど、可能なのでしょうか?失礼ながら、カルロ様がいらっしゃるし、お一人でできることとは思えません」

「兄ともよく新しい世の中をつくりたい、と密かに話しているんだ。実現は無理ではないと思う」


ヘンリーの兄カルロは、問題ばかり起こすヘンリーとは違って落ち着いていて聡明な人であった。現在は、体調を崩すようになった国王に替わって政治も担っている。


「だから、お前たちが結婚することもメッツォに新しい風を取り入れることに繋がる。身分を越えた愛、なんだろ?」

「はい、私はなんとしても彼女といたいのです」

「レウルス……」

「お前は、ルイーズとオレの過ごした時間に到底敵わないが、それでも少しは一緒にいたんだ。頼んだぞ」

「はい」


扉をノックする音が聞こえた。


「入ってくれ」


入って来たのは、クレメンテとクリスティアンだった。


「あなたたち……!」

「オレも彼らがどんな人物なのか知りたかったから呼んだんだ」


クレメンテは疲れた顔をしていたが、クリスティアンは元気そうだった。


「父上に注意勧告された割に君は元気そうだな」

「はい、みっちりとお叱りを受けましたが、私たちが外国人だというのもあっておっしゃられることにも限界があったのでしょう」


クリスティアンが平然と言う。


「クレメンテはゲッソリしているわ」

「僕はトリア人でも快活な方ではないので、堪えました」


彼の言葉に皆、笑った。


「オレは父とはまた考えが少し違う。気楽に話そうではないか」


そう言うと、ヘンリーは酒を持って来させて話し合った。


1時間もすると、ほぼ同年齢の彼らはあっと言う間に打ち解けていた。


(ヘンリー様は学園に在籍していた時もよく、こうしてお酒を飲み交わしていた、と言っていたわね)


あの頃は彼を不真面目だと思っていたが、こうして偏見なく話せるヘンリーに改めて感心させられたのだった。

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