要注意人物になった彼
新聞記事はやはりメッツォで物議をかもし出すことになった。
“身分違いの恋”だとか、“性別を超えた愛”、などという言葉はメッツォ国民にとって衝撃的だったのだ。
父が頭を抱えていた。
「やはり、こうなったな」
「父上、こうなったら逆手にとって彼のピアノ演奏会を積極的に開いてはどうでしょうか。彼のピアノに感心を持つ人は多いですよ」
父の世代は“とんでもない”という意見の人が多く、兄やルイーズたち、若い世代では“新しい価値観を支持する”という意見を持つ者が多い。かつてない議論がされていた。
「クレメンテの発言がこんなに注目されるとは驚いた」
レウルスも反響の大きさに驚いていた。
「私たちはトリアにいたからそこまで衝撃的だとは考えなかったけれど、メッツォは免疫がないから大騒ぎね」
………そんなある日、王城からついにクレメンテを召喚する手紙が届いた。
「ついに呼び出しが!」
父は顔を青ざめさせ、椅子を鳴らして立ち上がる。兄もさすがに険しい表情をしていた。
「お父様、私も同行しても良いでしょうか?」
「なぜ、ルイーズが?」
「私は、トリアやディートマルの国民性をよく知っています。だから、彼を弁護したいのです」
「いや、僕が行こう。僕はディートマル人だからね」
クリスティアンが名乗り出た。
「もともと、僕の発言でクレメンテが大きく影響を受けたのかもしれない。だから、僕がきちんと話すよ」
「それでも!クリスティアンだけでは不安だわ。........やはり私も付いて行きたいです」
「あれ、僕は信頼されていない?」
「あなたはいい人だけど、ちょっと空気を読むのが難しい時があるから」
「え...........」
地味にクリスティアンがショックを受けている。まさか、自分が空気が読めない人だとは考えてもみなかったらしい。
「ルイーズは大人しくしていろ。お前に被害が及ぶと困る。ただでさえ、話題豊富なのだからな」
父と兄は最後までルイーズが同行することを許さなかった。
残されたルイーズ、レウルス、マティスで話し合った。
「クリスティアン様になにかあったら……」
恋人のクリスティアンを案ずるマティアスが泣きそうになっている。
「オレたちはしばらく様子を見るしかないだろう。メッツォは古い国だから」
「……もどかしいわ。私、やはり、王城へ行くわ」
「大人しくしているように言われただろう?」
レウルスに言われる。
「ヘンリー様の友人として訪ねるわ。ならば、文句は言われないでしょう?」
レウルスたちに心配されたが、急いでヘンリーの元に手紙を送るとすぐに返信があった。
「ほら、ヘンリー様もぜひ来るようにと言っているわ。行って来るわね」
「一人で行くつもりか??」
「ええ」
「オレも行く!」
「え?あなたも?」
「反対してもムダだぞ」
レウルスが強く言うので、一緒に向かうことになった。
……城に着くと、部屋に案内される。ほどなくしてヘンリーが現れた。
「レウルスも来たのか。心配だったのか?」
「はい、世間ではいろいろと騒ぎが起きていますので。彼女に守るつもりで付いて来ました」
「オレからかもか?」
「……そういうわけではありません。城にはいろいろな方が出入りしておられます」
「その言い方だと、城の警備に不満があるように聞こえるぞ」
なんだか変なやりとりをしている。
「ヘンリー様、やめて。彼は本当に心配して付いて来てくれただけだわ」
ヘンリーは肩をすくめ、口元に笑みを浮かべる。
「こいつがお前の恋人だというから、つい意地悪を言いたくなってな」
「もう……そういう冗談は本当にやめて。心臓に悪いわ」
「わかった、わかった」
ヘンリーが2人に座るように促す。
「訪ねて来たのには、クレメンテというピアニストの発言だろ?」
「ええ。クレメンテが呼び出されてこちらに来ているわ」
「もちろん、知っている。父上たちは“自由”という言葉に敏感なんだ。国の秩序が乱れるのを恐れている」
自分も王室の人間であるのに、ヘンリーはずいぶんとハッキリと言う。
「クレメンテは要注意人物になってしまったわ。彼はどうなるかしら?」
「メッツォでの活動を制限するように言われるだろう。もしかしたら、帰国するように言われるかもな」
「そんな……」
「ルイーズはクレメンテとデュオを組む予定だったと聞いている」
「そうよ。でも、クレメンテの発言でそれどころではないわ」
「今のメッツォでは、彼の意見はまだ斬新すぎる。ルイーズは彼とは別に活動しなくてはならないな」
(あんなに才能ある人なのに……)
「オレはもともと型にはまったものがキライだ。だから、学園にも真面目に通わず遊んでいた。だが、その分、民意も分かるつもりだ」
ルイーズとレウルスは彼がなにを言うのだろうと見つめた。
「いずれ時代は変わる。そうしたら、新しいものを取り入れながら新しいメッツォをつくっていくことになるだろう」
ヘンリーは大胆な発言をしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます