クレメンテ、渾身のソロ演奏会
屋敷が急激に賑やかになった。
レウルス、クレメンテ、クリスティアン、マティアスがいて、お国柄陽気なディートマル人そのもののクリスティアンはうるさいぐらいだ。彼、お得意のオタク話が炸裂している。
「国民性って、やっぱりあるのね」
「人によるだろうが.......。マティアスは大人しいし。と言っても、自由な発想はやっぱりディートマルならではかもしれないな」
「我が家の男性たちもどちらかというとディートマル寄りだと思うわ。お父様たち、とても陽気でしょう?」
「酔うとそうかもしれないな」
先日、クリスティアンから“まだレウルスと一緒にならないのか?”と聞かれた。彼は大抵、ズバリと聞いてくる。
『ええ。まだ父と兄が許してくれないの。メッツォは保守的だから……』
『なら、この国も改革が必要だね。君たちには是非、幸せになって欲しい』
『うふふ、ありがとう。......あなたたちはどうなの?』
『僕たちも変わらずかな。でも、最近は僕たちのような関係も少しずつ一部の人に認められてきている。そういう空気に救われることもあるよ』
『そうなのね』
(ディートマルで難しいならば、メッツォではより難しい問題ね)
………最近、クレメンテがクリスティアンに影響されたようで、陽気な曲を作っていた。
父はその曲を聴いて気に入って、さっそくセットリストに入れようとしているらしい。
「お父様があなたの作った曲を気に入ったみたいね」
「完全に出来上がったらルイーズにも聴いてもらいたいな」
「ええ、もちろん」
「じゃあ、頑張って仕上げるよ。君のためにも」
「私のためにも.......?」
まるでクリスティアンみたいな言い方をする。一緒にいるから影響されたのだろうか?
「あなたがそんな言い方をするのは、ちょっとなんだか慣れないわ」
「こういうノリもいいなと思って」
大人しい彼が妙なことを言い出したなと思った。
…………クレメンテのソロ演奏会はすぐにやってきた。
父と兄が積極的に宣伝していたおかげで街の小規模なホールでの開催であったが、多くの貴族が訪れていた。フルンゼの皆も駆けつけてくれたので賑やかである。
演奏は、メッツォ人が好みそうな静かで美しい曲から、だんだんとリズミカルでノリのよいテンポへと変わっていく。
(さりげなくクラシック曲を交えて弾くなんて小粋だわ)
自然と身体が揺れそうになった。レウルスも手でリズムをとっている。
ルイーズの両隣を陣取って座る父と兄も満足しているようだった。ちなみに、モニカは家で休んでいる。
演奏会もあっと言う間に終盤となり彼の作った曲がお披露目されると、観客たちは目新しい曲に興味津々であった。
(やっぱり、この曲は関心を引いたわね。陽気な旋律がディートマルらしいもの)
自然と手拍子が沸き起こり、会場が熱を帯びていく。
観客の様子を見たクレメンテが突然、転調した。旋律が変わった瞬間、空気が一気に高ぶり、会場全体が音に引き込まれていく。
先日、彼がこぼした悩みが思い浮かんだ。でも今、彼がこうして多くの人の心を掴んでいるのだと思うと、胸がギュウッと締めつけられた。
(――良かった。あなたのすごさを理解してくれる人はちゃんといるのよ....)
そう心の中で語りかけたとき、自然と涙が頬を伝っていったのだった。
.........クレメンテの演奏会はスタンディングオベーションで幕を閉じた。
「彼はいい演奏をするな」
「お父様も彼はスゴイと思ったでしょう?」
「ああ。期待以上だ」
彼が褒められると自分も嬉しかった。
(なんだか自分の身内のような気分になってしまうわ)
クレメンテは一緒に話していると落ち着く人だ。仲間として彼を好ましく思っている。
「後ですごーく褒めなくちゃ」
独り言だったが、しっかりレウルスに聞かれた。
「.......あまりクレメンテのことばかり気にすると、妬ける」
「今日は特別だから仕方ないわ。彼の悩みを知ってどうしても応援したくて........いえ、なんでもないわ」
「悩み?」
レウルスがさっそく引っ掛かる言葉を聞いて反応している。
「えーと、そのたまたま休憩中に彼の悩みごとを聞いたの。私たちにも共通する悩みで興味深かったわ」
「2人きりで話を?」
「密室で話したわけではないわ」
ピアノの練習部屋で話していたが、扉は開けていた。
「とにかく楽屋を訪ねてみましょう」
父も兄は先に帰ると言うので、ルイーズたちだけでも顔を出そうということになった。
楽屋を訪ねると、クレメンテが満面の笑みを浮かべている。
「ルイーズ!」
驚いたことに彼は、レウルスやほかの者がいる前でルイーズを抱きしめたのだった。
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