悩める2人と小さな希望の光
クレメンテの演奏を聴いた父と兄がクレメンテのソロ演奏会をやると言い出した。
父はフルンゼの面倒を見ていることもあって、世に出す作業には自信があるようである。
あっと言う間に会場を押えると、1ヶ月後に開くと伝えてきた。
「クレメンテ君ならできるはずだ。期待しているぞ」
「はい、必ずやご期待に沿えるようにします」
「固くなるな、ハハハ」
父たちが城に出掛けた後、クレメンテに声をかけた。
「大丈夫?急ではない?」
「いや1ヶ月あるからどうにかなるかと。でも、さっそく取り掛からないと間に合わないぞ……」
クレメンテが焦っている。
「お父様は、どんなセットリストを要求しているの?」
父は演奏曲の提案も積極的に行っていた。
「こんな感じ........。こちらより、作曲の方が問題なんだ」
「え?1ヶ月の間に作曲もして完成させろというの?」
「そうなんだ」
父は、クレメンテが学生の頃から作曲や編曲をやっていたと聞いて、クレメンテに自作の曲を披露させようとしていた。
クレメンテならば作曲も苦ではないだろうが、それなりの演奏時間で人に聴かせるとなると、かなりの難題を突き付けられることになる。
「お父様ったらひどい。もう少し後の演奏会ならばともかく」
きっとこの場にレウルスもいたら同じように考えただろう。彼は、フルンゼのチェリストであるミアが負傷したせいで、今、代打を任されていていない。
それもあって、父は各々に新たな企画をしていたのだ。父の中ではルイーズは、クレメンテとのデュオを考えているようで、まずはクレメンテを売り出すようである。
「お父様の要求に無理なものは無理、と言っていいと思うわ」
「それはイヤなんだ」
「え?」
「オレにとってはチャンスだから。君たちよりもオレはよりチャンスをしっかりと掴まなくてはならないから……。あ、ごめん。変な言い方をしてしまって」
クレメンテにも焦りがあるのだと、ルイーズは改めて思った。
「いいえ。皆、チャンスは欲しいものだわ」
「夢のためにやらなくちゃいけない、といつも自分に脅迫めいた考えがあってね......。おかしなことを言っているよね」
「全然、おかしくないわ。詳しく聞かせてちょうだい。あなたの悩みを」
クレメンテの言うことは自分にとってもよく分かる話だった。もっと話を聞きたくなって、2人でピアノ室に向かった。
「レウルスはフルンゼに行っているから安心して話して」
寝ぼけたクレメンテに抱きしめられて以来、クレメンテもルイーズも気を使って距離をとるようにしていたから、心の悩みについてなど話す機会がなかった。
「なら、せっかくだから.......聞いてもらおうかな」
クレメンテはポツリポツリと話し出した。
音楽院でギャエルに出会って衝撃を受けたこと、コンクールで評価されたこと、他国でも経験を積みたいとメッツォに修行で訪れていたこと。
彼は悩みながら行ってきたことを話してくれた。
「.....でも、メッツォに来てから言語が違うのもあって、なんだかやる気がなくなっていたんだ。そこに、ちょうど凱旋ツアーで訪れた君たちに会って。ギャエルに言われるままトリアに戻った。そして、今はここにいる」
「縁て不思議よね」
「うん。僕は君たちが眩しくて仕方がない」
「眩しい?」
思わぬ言葉を言われて戸惑う。
(クレメンテには私たちが輝いて見えるということ?そんなことはないのに。レウルスはともかく)
「ルイーズもレウルスも恵まれている。オレは平民なのもあって、思うように認めてもらえないことが多い。重宝されても結局は編曲とか手伝いとか影の存在だ」
クレメンテの言葉に、貴族と平民の違いを突きつけられた気がして思わず下を向いた。
「責めているわけではないんだ。ただの嘆きさ。著名な先人も誰もが恵まれた基盤の上に生まれたわけではないとは分かっているんだ」
「..........クレメンテ。私はあなたが羨ましいと思っていたの」
「オレが羨ましい?」
「だって、あなたの才能はズバ抜けているから。私は努力しても、あなたに追いつくことなどできないと感じて」
自分で話していて悲しくなった。
「........皆、人のことを羨むものなのかな」
「おそらくそうだわ」
「オレは、この人生の中で一体どれくらいのことができるのかなとか、ずっと焦っていた。悩んでもなにも生み出されることはないのに。情けない」
クレメンテは泣いていた。
「情けなくなんてないわ。私はただ、ひたすら続けていくしかないと考えているわ」
「続けていくことか.......。確かにそうだ」
2人で話していてお互いに心の悩みが少しずつ整理されるような気持ちになった。
「ルイーズ、話を聞いてくれてありがとう」
「いいえ。あなたの悩みであって私の悩みでもあったわ」
クレメンテは手を差し出すと、握手を求めてきた。
「握手なら、いいよね?」
「ええ」
ルイーズはクレメンテの手を握り返したのだった。
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