秘密の夜

部屋で2人、向き合っていた。


レウルスが情熱的なキスをしてくる。


だんだんそれは深まって息苦しいくらいになった。


でも、彼がキスする度に顔に眼鏡が当たる。


「……レウルス、眼鏡をかけたままだわ」

「そうだな。外すタイミングを間違えた」


2人して笑い合う。


レウルスは眼鏡を外すと、ベッド脇の棚に置いた。


再び、レウルスの顔が近づいてきて、唇がそっと重なる。


ほどなくして、そのキスは深くなった。


やがて唇は首筋へと移り、ルイーズの呼吸も自然と熱を帯びていく。


力が抜けてきて彼にしがみつくように立っていると、ドアを叩く音が聞こえた。


2人してビクリとする。


「お嬢様!お嬢様!急ぎ連絡があります!」


ジーナの声だった。


ルイーズは急いで眼鏡をレウルスに渡すと、窓の方を指す。


レウルスはうなずくと、すぐに窓から出て行った。


その姿を見届けたルイーズは深呼吸をすると、声を出した。


「今、扉を開けるわ」


ゆっくりとドアの方へと向かうと、ドキドキする胸を抑えながらドアを開けた。


「お嬢様!」

「どうしたの?」

「良かったです……」


ジーナが安心したような顔をしている。


「なにがなの?」

「……その理由は、お嬢様が一番、よくご存じのはずです」


一拍おいてから、ジーナはそっと目を細めた。


「えーと」


イヤな予感がした。


「デニスがお嬢様の部屋に入るレウルス様を見かけたんです。それで、私が止めに来たのですよ」

「……!!」


全ては知られていたのだった。


「お願い、お父様たちには言わないで」

「分かってます。私たちだって、お嬢様たちのことは応援していますし。だけど、順番を間違えてはいけません。旦那様たちに認めて頂きたいのでしょう?」

「ええ。だけど――その、盛り上がってしまって……それにしても、ジーナたちに知られていたなんて。とっても恥ずかしいわ!」

「こちらも、悪いことをしたとは思っています……」


こんな恥ずかしい思いをしないためにも、一刻も早くきちんとレウルスと結婚したいとルイーズは思った。


――翌日、平静を装って朝食の部屋へと向かうと、レウルスと目が合った。お互いにぎこちなく微笑み合う。


(後で、ジーナたちにお見通しだったことを伝えなきゃ)


「なにを2人して微笑んでいる?なにかあったか?」


こんな時に限って兄が声をかけてくる。


「別になにもないわ。――それより、お兄様。今度、モニカ様と一緒にクレメンテのピアノを聴かせてもらわない?」


急に話を振られたクレメンテは、急いで姿勢を正した。


「僕はいつでも」

「皆、盛り上がってなんの話だ?」


遅れて来た父が尋ねながら席につく。父の後ろにはデニスがいて目が合った。彼はすぐに目を逸らす。


(お互いに気マズイ……)


やはりメッツォにいる間は気を付けねばと思った。


ルイーズは咳払いすると、話の続きをする。


「......えーと、クレメンテのピアノ演奏を聴こうという話よ。彼のピアノ、まだお父様もきちんと聴いたことがないでしょう?」

「ふむ。忙しくてなかなか聴けずにいたな。彼の演奏が良ければ、新たな企画を考えようと思っていたんだ」


父はルイーズが戻って来たことで、企画や宣伝に力を入れ始めていた。


「殿下に頼んで、王宮で演奏会を開くのが一番早いのではないかな?」


ルースの言葉に父がうなずく。


「昨日、私が殿下に演奏会の提案をしてみたところ、とても前向きでおられたぞ」


ルイーズたちが去った後、父がちょうど演奏会の提案をしていたようだ。


「それにしても殿下は、本当に穏やかになられたな。あの頃から今のようであれば、ルイーズと問題は起きなかったというのに。――あ、レウルス君、他意はないから気にしないでくれ」


父は本当にうっかり言ったようだが、レウルスの眉が少しピクリと動く。


「お父様、私たちを応援して下さってありがとう。どんどん、企画や宣伝をしてもらえると嬉しいわ」


自分たちが有名になれば、父たちもレウルスのことを認めないわけにはいかなくなるだろう。


「私からも宜しくお願い致します」


レウルスが深々と頭を下げた。慌てて、クレメンテも頭を下げる。


「心配するな。トリアに負けず劣らずメッツォだって音楽で知られる国だ。メッツォは音楽でも優れているのだと、世界に発信してやろう」

「お父様がいれば心強いわ」

「お兄様もいるぞ!」

「ええ、お兄様も。こんなに私を大事にしてくれるお父様とお兄様を、心から愛してるわ」


ルイーズの言葉に、父がさっそく手を目元に当てる。


「まさか、お父様、泣かないわよね? お兄様も」


兄も下を向いて目頭を押さえている。


「小さいと思っていたルイーズがそんなことを言うと、感動するものだ」


朝から父と兄は涙ぐんでいた。


「ですから、私は小さな子どもではありませんってば」


ルイーズの突っ込みが朝食の場をほっこりさせたのだった。


――朝食が終わると、城勤めの2人は馬車に揺られて出掛けて行った。


「さて、私たちも練習をしましょう」

「ああ」

「うん」


ピアノ室の前でクレメンテと別れると、レウルスとそれぞれの練習室へと向かった。


ルイーズはまわりをキョロキョロとする。


「どうした?なにをしている?」


レウルスが不思議そうに聞いた。


「誰もいないわね。 実はね、昨晩のことをジーナたちに知られていたの……」


その瞬間、レウルスの動きが止まった。


まるで時間が凍ったように、彼は微動だにしない。


普段、冷静な彼のそんな姿を見て、ルイーズはほんの少しだけ、くすっと笑ったのだった。

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