フルンゼの温かい仲間と仲直りのキス
ヘンリーとの会談の後は城を後にした。
馬車に乗ったのはよいが、なんだかレウルスの機嫌が悪い。
「ルイーズ、殿下と親し気に話しすぎだ」
「だって、彼は私の幼馴染でもあるのよ。今の彼は子どもの頃の関係に戻ったようで話しやすいの」
「それでも殿下はもう結婚されている。もう少し控えるべきだ」
「そうね。つい、盛り上がってしまったわ」
馬車の中がシン……とする。
「あのー。僕は歩いて帰ろうか?」
2人がケンカしていると思ったクレメンテが言った。
「ごめんなさい、気を使わせたわね。この話はもう終わりだから。ね?」
レウルスの方を向いてルイーズが言うと、彼もうなずいている。すっかり微妙な雰囲気になっていた。
「あの、せっかくだからフルンゼに顔を出していきましょうか。この時間なら皆が集まってきている頃だし。皆にクレメンテを紹介したいわ」
「そうしようか」
レウルスも空気を悪くしたのを感じて、すぐに了解した。馬車はそのままフルンゼ楽団の練習場の方へと向かう。
商会の側で馬車を降りると、練習場まで歩く。
扉をノックすると、ムードメーカーでトランペット担当のブラッドが扉を開けてくれた。
「オリビア!!」
「ブラッド、またしばらくぶりね」
「リーダーに聞いているよ。しばらく、メッツォにいるんだろ?」
ブラッドがルイーズに親し気に話すの見て、クレメンテが驚いている。
「よう、レウルスも!お前が帰って来てくれて嬉しいよ」
「おう。オレもだ」
「そちらの連れが、新しいメンバーなんだろ?ピアニストだって聞いてるよ」
クレメンテは突然、自分のことを言われたので急いで挨拶した。
「僕はトリアから来たクレメンテです。宜しく」
帽子を取るとペコリと頭を下げる。
「礼儀正しいヤツなんだな。宜しくな! まあまあ、中に入ろうぜ」
ブラッドが入口で、大声で話していたせいもあって、中にいた楽団員たちも全員、ルイーズたちの方を見ていた。
「わあ、私のオリビア!会いたかった~!」
姉貴分のシャーロットがルイーズに抱きつく。
「また、スイーツの話で盛り上がれるわね」
女子で盛り上がっていると、お調子者でホルン担当クリフも割り込んできた。
「ルイーズ、オレもハグ!会いたかったよ~!」
おどけたクリフが腕を伸ばしてきたところで、彼はレウルスに頭をはたかれた。
「いて!なんだよ~!」
クリフはそのまま倒れ込むようにしながら、今度はレウルスに抱きついた。
「やめろバカ!暑苦しい!」
わちゃわちゃする様子をクレメンテは呆気にとられて見ていた。
――落ち着いたところで、改めてクレメンテを紹介する。
「ピアノが新調されたと思ったら、クレメンテのためだったんだ~」
遅れてやってきたミアが言う。
「ありがたいな。素晴らしいピアノだ」
ピアノは、ルイーズの父が用意したものだった。
「クレメンテ、紹介ついでにあなたの腕前を披露してみたら?」
「ぜひぜひ!」
という皆の声もあって、さっそく即興の演奏会となる。
クレメンテの両手が華麗に舞った。彼の演奏は情緒的で、皆の心を掴むには充分だ。
「……いい!すごいいい!」
あっと言う間に、彼らはクレメンテのピアノの虜になったのだった。
「よう!遅れた!……ってなにかあった?」
病気の父の様子を見てからやってきたレイニーが不思議そうに尋ねる。
クレメンテのピアノがスゴイと聞いて、レイニーのためにまた、即興の演奏会となった。
レイニーもクレメンテの演奏に感激し、大絶賛する。
「クレメンテとフルンゼとでなにかやりたくなるな」
「ぜひ、呼んでもらえればやらせてもらうよ」
「考えていこう」
その日は、今後の演奏会の計画などを熱く話し合い、屋敷に戻ったのだった。
――夕食後、ルイーズはレウルスにバルコニーに誘われた。
「昼間のことだが……言い過ぎた。ゴメン。嫉妬したんだ」
彼が素直に心の内を語るので少し驚いた。
「意外そうな顔をしている」
「そうね。あなたはいつも難しく考えていて素直に言うことが少ないから。……私もごめんなさい。あなたの気持ちを考えていなかったわ」
「じゃあ、仲直りしてくれるか?」
尋ねながらも、顔がもう近づいてきている。反動で目をつむるとキスされた。
ルイーズからもキスのお返しをする。
「クレメンテのこと、フルンゼの皆はとても気に入ったようね」
「あいつの実力はスゴイからな。メッツォでもやれることはたくさんあると思えたよ」
「これしかない、ってことはないってことよね。もっと広い視野で考えなくちゃと思えたわ」
「そうだな」
しばらく話していると、ジーナが呼びに来た。入浴の準備ができたらしい。
「もう少し話をしたいところだけど、今日はここまでね。おやすみなさい」
「ああ」
名残惜しそうな表情をしたレウルスが印象的だった。
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