◆第14章 自分は自分のままで

再びメッツォへの帰郷

再びメッツォに戻って来た。


駅ではレイニーが出迎えてくれた。


「レイニーさん、また会えて嬉しいわ」

「オレもだよ。悪いね。うちの父のせいでルイーズも呼び寄せることになってしまって」

「いいえ。気にしないで」


レイニーは、自分たちの父のせいで迷惑をかけていると思っているようだ。


「父さんの容態は?」

「変わらないよ。なんだか生きる希望を失っているみたいなんだ。だけど、お前も帰ってきたことだし、良くなることを願うよ」

「レウルス、早くお父様の所に行ってさしあげて」

「ああ。様子を見たら、そちらに行くから」


レウルスたち兄弟はすぐに実家へと向かった。ルイーズはいきなり訪ねるわけにもいかないので、実家で待機することになったのだった。


「クレメンテ、私たちはしばらく屋敷で待機することになるわ」

「ああそうだね。僕はちょっと楽器店に寄って行きたいんだけど、いいかな?」

「ええ、いいわ。私も行きたいと思っていたの」


そういうわけで楽器店に寄ることになった。


(この楽器店はレウルスと来た思い出の場所だわ……)


クレメンテは楽譜を見ていた。


「楽譜を集めているの?」

「そうなんだ。レウルスもよく楽譜を見ると言っていたよ」

「そうね。彼から楽譜をプレゼントしてもらったことがあるわ」

「君たちは、とても仲がいいよね」

「ええ。そういえば、クレメンテには恋人はいないの?」


気になって聞いてみた。


「僕にはそういう人は……。うらやましいよ」

「あなたは才能に溢れている人だから、寄って来る人がたくさんいるのではないかしら」

「そうだといいんだけどね」


せっかくだからとお茶もしていくことにした。2人きりはダメだとレウルスに言われているので、ジーナたちも誘う。


ジーナたちとゆっくりとおしゃべりするのも久しぶりだった。彼らは遠慮してほかの席につこうとしたが、4人で楽しく話そうとルイーズが言ったのだった。


「お嬢様とこうして同じテーブルにつくのは以来でしょうか」


護衛騎士でありジーナの恋人となったデニスが言う。


「そういえばそうね。あの時はデニスがとても面白かったわ。“アメリーゴ”、だったかしら?あなたの偽名は」

「ハッハッハ!覚えてらっしゃいましたか!」


なんの話か分からないクレメンテに、簡単に説明をした。ジーナはデニスからも話を聞いて知っているから笑っている。


「……そんなことがあったんだね。あの、アードルフさんとルイーズが付き合っていたとは知らなかった」

「知らなかった?ギャエルが話しているかと思っていたわ」

「あいつは、そういうことを話さないから」

「なんとなく分かるわ。この話も過ぎたことだから笑える話よ。今は、アードルフは父になる喜びでいっぱいなのだから」

「え、もう新しい人と恋を?というか、子どもも?」


クレメンテもさすがに驚いている。


「そうなの。皆、あまりの早さに驚いたわ。でも、運命ってそういうものかもしれないわね」


デニスがなんだかうなずいている。


「オレもジーナに会った瞬間、直感で感じたんです。で、ホラ、オレたちも結婚しましたし。子どもはまだですが」


デニスはジーナの左手を持ち上げて、結婚指輪をクレメンテに見せている。


「僕に敬語なんて使わないで下さい。いいですね。大切な人が側にいるというのは」

「メッツォは美人が多くて有名な国だ。だから、君もきっといい人を見つけられるよ。君も堅苦しい言葉はやめてくれ」


さっそく敬語をやめたデニスが言う。クレメンテもうなずく。


「実は、僕は少し前までメッツォに住んでいたんだ。だけど、僕はピアノばかり弾いていたから出会いもなくて」

「なら、これからは外にも出ればいい。せっかくメッツォにいるんだ」

「そうだね。でも、僕は心落ち着く人が側にいればそれでいいかな」

「若いのに欲がないなあ」

「ハハ」


すっかり打ち解けた様子のデニスとクレメンテだった。


――屋敷に戻ると、ほどなくして父と兄が帰って来た。


「お帰り!ルイーズはまたキレイになったんじゃないか?クレメンテ君もゆっくりとするといい」

「ルイーズがしばらくこちらでゆっくりできるとあってお兄様は嬉しいよ」

「お兄様、しばらくお世話になるわね。モニカ様は?」

「モニカは、部屋にいると思うよ。寝ているのかもしれない。最近、ちょっと体調が悪くてね」

「そうなのね……」

「あ、でも、体調が悪いと言っても……。おめでたなんだ」

「お兄様のところも??」


重なる時は重なるものだと思った。


、ってなんだ?」


アードルフのことを説明すると、父も兄も仰天している。そして、なんだか怒っている。


「驚くのは分かるけど、怒ることかしら?」


父が眉をひそめながらこちらをキッと見る。


「あいつはお前をメッツォに追いかけて来た時に言ったんだ。“ルイーズにもう一度認めてもらうまで僕は諦めません!”とな!それが、なんだ!ほかの令嬢と子をもうけて結婚だと!?」

「そうだ!そうだ!」


あの時のアードルフは、まだルイーズに気があった。


「お父様、お兄様、時間が経ったのよ。今は今だわ」

「今思うと、お前の決断は正解であったな。あんな尻軽男と結婚せず良かったわい!」

「尻軽男だなんて……」


父と兄はいつものごとく怒っていたのだった。

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