ほんのりと感じた寂しさ
アードルフとヴィヴィアーヌの言葉に皆、驚いていた。
「アードルフ兄、結婚式前に……。早いよ」
コンラートがフローレンスの口を押えた。
「おめでたいことだよ!君たちに早くも子どもが授かるなんてステキじゃないか」
「だから、アードルフはソロで活動をこのところしていたの?聞いた時、おかしいなとは思ったのよ」
「ハハハ、まあそういうわけなんだ」
「お前、いい父親になれよ」
レウルスがまるでアードルフの父のようなことを言う。
「ぷっ!レウルスはアードルフ兄と同じ歳でしょ?なのに、レウルスが言うと貫禄があって笑える」
「フローレンス、君は失礼だな。いずれ、君だって母親になるかもしれないぞ。結婚式は間もなくだろ」
「そうなの。でも、私がお母さんになるのはまだかなあ……」
「私たちは私たちのペースがあるからね」
フローレンスとコンラートが見つめ合っていた。
――音楽院からの帰り道、途中で馬車を下車して街を歩いていた。
「トリアをしばらく離れると思うと、急に名残惜しくなるわね」
「ああ。………でも、父が安定したらトリアに戻ってこちらで活動したいと考えている」
「それは、あなたの中でもう決めていることなの?」
ルイーズはレウルスを見た。
(この人は、また自分で未来を一人で決めているのかしら?)
「不安そうにしないでくれ。今言ったことは、ルイーズとも話して決めたいと思っていたんだ」
「今のあなたの言い方だと、もうすでに決めたような言い方だったわよ?」
ルイーズがそう言うと、なんだかレウルスが言いにくそうにしている。
「せっかくだから、あのカフェでお茶でもしながら落ち着いて話しましょう。屋敷にはクレメンテもいるし、落ち着かないでしょうから」
「分かった」
入ったカフェは以前、ルイーズとアードルフがデートをしていてレウルスとその友人が鉢合わせした店だった。
あの時は、近づきがたい店になっていたが、レウルスと2人で入って良いイメージに上書きしたいとずっと思っていた。
「この店……」
「そうよ、私はあなたと入りたいと思っていたの。さあ、なにを頼む?」
レウルスを促すように席につかせると、ケーキと紅茶を頼んだ。
「先ほどの話の続きだけど......。あなたの、いえ、私たちの今後についてどう考えているかきちんと話して」
「ああ……」
なかなかレウルスは語ろうとしなかったが、観念したように口を開いた。
「この間、ルイーズの部屋で、風に飛ばされそうになってた手紙を偶然見て……まだこのままじゃダメだって、思ったんだ」
父からの手紙をレウルスが見たから彼の様子がおかしかったのかと、納得した。
「あれは、お父様の意見であって私の考えはまた別よ」
「そうはいっても、結婚は2人で決められることではない。ましてや、音楽活動をしているんだ。ルイーズの父上を裏切るようなことはできない」
彼の様子からして相当、悩んでいたようだ。
「レウルス、あなたはこちらに戻ってさらに実績を積もうと考えているようだけど、人生にはどうしても優先しなくてはならない時というものがあるわ。今、あなたはお父様の側にいるべきよ」
ルイーズがキッパリ言うと、レウルスがルイーズを真っすぐ見る。
「お父様やお母様からバイオリンやチェロを習って今に至るのでしょう?あなたのお父様は、あなたが側にいたらきっと嬉しいと思ってくれるのではないかしら?」
レウルスの瞳が潤み、涙が頬を伝っていく。
(レウルスが泣いたところを見るのは初めて)
レイニーとレウルスは仲が良いし、たまに聞く両親の話からして、とても良い家庭環境なのだろうと思っていた。
「……ありがとう。オレは、なにかを成し遂げなくてはと、そればかり考えて……情けない」
「あなたは真面目すぎるのよ」
レウルスに手を握られる。滅多に見せない彼の弱いところを見た気がした。
彼はしばらく目頭をつまむように抑えていたが、手を離すと再びルイーズを見た。
「………落ち着いた?」
「ああ。すまない」
「謝ることじゃないわ。こうして思っていることを話してもらえる方がずっといいわ」
「これからはそうする」
「ええ」
屋敷に戻ると、もう夕暮れだった。
先に馬車が帰ってからレウルスと2人だけだったので、かなり心配された。
「ジーナの心配はどちらの心配?」
さっき、アードルフが父親になるとジーナに話していた。
「正直、どちらもです!私はお二人のことを応援していますが、そのためにはきちんと守らねばならないことがありますよ!」
「分かっているわよ。メッツォに帰る前にあちこち寄り道していただけだわ」
「デニスはお嬢様を探しに街へ行っています。皆も心配しますから、ほどほどにお願いしますね」
「え、そうだったの?デニスに悪いことをしちゃったわ」
「大丈夫ですよ。もうすぐ戻って来るでしょう」
ジーナの薬指にはリングが輝いていた。ジーナは前回、メッツォに戻った時に父にデニスとの結婚を認めてもらえたのだった。
「信頼できる2人っていいわね」
自分のまわりがどんどん結婚していくので、なんとなく寂しさを感じたルイーズであった。
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