嫉妬のキスと父の封書

ルイーズはレウルスに抱きしめられていた。


「……自分ではない男に抱きしめられている姿を見て、冷静でいられなかった」

「ごめんなさい……」

「どうして、どうしてされるがままでいたんだ?」

「抵抗はしたわ。でも……彼は寝ぼけていて。私を亡くなったお母様だと思っていたようなの」

「亡くなったお母様?」

「きっと、私がお母様を思い出させたのだわ」

「ルイーズが母?そんなバカな」


レウルスが頭に手をやり、くしゃりとさせる。


「私は怒っていたから、彼を厳しい態度で起こしたわ。だからきっと、お母様と勘違いしたのよ」

「……だとしても、ダメだ」


レウルスにキスされた。


彼は恋人になってから、自分に近づく人に対して厳しくなったと思う。


――先日、店のショーウィンドウを覗いていた時のことだ。


ある壮年の紳士に声をかけられた。


『お嬢さん、宜しかったらそちらを買ってさしあげましょうか?良かったらお茶でも』


その人の誘い方はしつこくはなかった。お断りをしようと思っていると、少し離れた所にいたレウルスがスゴイ勢いで来て、紳士の前に立ちはだかった。


『彼女になにか?人の恋人に勝手に声をかけないでくれ』


レウルスは紳士にそう言うと、ルイーズの腕をとってその場を去ったのだった。


その時はそこまで言わなくても......と思ったことを思い出した。


「オレは、もう二度とほかの男にルイーズをとられたくないんだ。だから……」


レウルスがなにかを言おうとして、口を閉じた。


「レウルス?」


声をかけると、彼は再びルイーズを抱きしめた。


レウルスが言葉を途中で止めるのは珍しい。彼はいつだって自分の中では答えが出ていて、分かりにくくてもなにかしら伝えてくれる。


「レウルス、不安にさせてごめんなさい。私もあなたと離れたくないわ」


レウルスの顔に手を触れると、引き寄せてキスをした。


「ルイーズ…」


しばらくそのまま、お互いの気持ちを確かめ合った。


「……そろそろ、朝食をとりに行きましょう」

「ああ」


練習室を出る時、ルイーズはふとレウルスがさきほどなにを言いたかったのか気になった。


「ねえレウルス、言いたいことがある時はきちんと話してね?」

「分かった」


手をつながれたまま、朝食を用意された部屋へと向かう。さすがに、この状態でクレメンテに気を使いましょう、とは言えなかった。


――各々の練習が終わり、休憩をしているとジーナが父からの手紙を持ってきた。


「また、お父様から?」


父は最近、頻繁に手紙を送って来る。


手紙を開くと、ルイーズの頭を悩ませることが書いてあった。


《ルイーズへ


変わらず元気だろうか?こちらは私とルースの心配はないが、レウルス君の父には問題がある。彼の父はもしかしたら長くはないかもしれない。


だから、一度、レウルス君はメッツォに戻った方がいいと思う。ルイーズも戻って来なさい。新しいトリオを組んだというが、まだ活動をしていないのだろう?なんなら、もう一人の彼も連れて来るといい。


あと、手紙で言うべき話ではないが、レウルス君の父の容態の悪化したことで冷静にお前たちのことを考えてみた。


レウルス君は男爵位を継げない。私としてはやはり、そのような者にお前をやろうとは思えない。その辺りもきちんとお前と直接話したいと思っている。


とにかく、一度、メッツォに戻るように 父より》


そう書かれていた。


(お父様はやはり結婚までは認めて下さらないのね……)


父は、交際を認めてはくれたが、“軽率なことはしないように”と厳しく言われていた。子どもが生まれるようなことを絶対にするな、という意味だった。


特にレウルスに父は、かなり厳しく伝えたようである。なんだか、誓約書のようなものまで書かされたらしい。


(アードルフと付き合っていた時も言われたことだけど、レウルスにはより厳しい要求をしているようだわ)


ジーナたちにも問題が起きないように、厳しく見張るように命じているみたいだ。レウルスと一緒にいる時、側にジーナたちの気配をいつも感じる。


(とにかく、メッツォに戻らねばならないわね。レウルスとクレメンテにきちんと話さないと)


またしても複雑な問題が起きていると感じたルイーズであった。

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