卒業演奏会とキラリと光る指輪

卒業試験の季節がやってきた。


卒業の演奏テストは、観客を入れての試験であるから緊張する。


観客席にはアードルフやコンラートもいた。アードルフの隣には、無事に恋人になったヴィヴィアーヌ嬢の姿もあった。


緊張したが、集中して楽しむ気持ちで演奏を終えられた。


「ルイーズ、良かった」


レウルスに言われてホッとした。彼に言われたなら大丈夫だという気持ちになる。


チェロは、午後の時間に試験が行われる予定になっていた。


「レウルスも頑張って」

「ああ」

「ルイーズはきっと卒業演奏会のメンバーに選ばれるだろう」

「だといいけれど」


レウルスが言う通り、卒業試験の成績によって卒業演奏会のメンバーになれるかどうかが変わる。選ばれるのは名誉なことなのだ。


.............卒業試験が終わった。ルイーズたちは皆、無事に卒業できた。


「あの先生との格闘も長かったけど、もうこれで終わりかあ」


フローレンスがしみじみと言っていた。彼女はそりが合わない教師と、なんだかんだ二人三脚だったから感慨深いらしい。


教師もイジワルするつもりでしごいていたわけではないので、彼女が無事に試験を終えるとねぎらいの言葉をかけてくれたのだとか。彼女もしっかりと卒業演奏会のメンバーに選ばれていた。


結果的にディーター以外は選ばれていた。ディーターは悔しくて泣いていた。


「......いろいろとあったけれど、卒業となれば、フローレンスはコンラートと結婚するのよね」

「そうなんだよね。早いわ」


フローレンスのお祝いは、なにを贈ろうかと悩んでいた。


(レウルスとも相談してみよう)


卒業演奏会まではタイトなスケジュールで進んだ。


毎年、ウイナ音楽院の卒業演奏会は抽選になるほど好評だ。今年も多くの人が応募したらしい。


卒業演奏会は観客席が埋まっていた。


「これが終わったら本当に最後なのね。寂しい。でも、ルイーズたちがまだトリアにいるのは嬉しい」

「ええ。私もよ」


ルイーズとレウルスは上に進学することを決めたのだった。


クレメンテとトリアで活動するのもあって、在籍している方が拠点ができて良かったのもある。なにより、共に過ごしたフローレンスたちと離れるのが寂しかった。


「お父様は私がやっと帰って来ると思っていたから相当、文句を言っていたけど、やりたいことに取り組むにはタイミングも大切だから」

「それはそうだね」


コンラートがフローレンスの肩を抱きながら言う。


「後悔ないようにするのが一番だと私も思うよ」

「コンラートが言うと、どれも格言に聞こえるわ」

「ホントだね」


アードルフたちも加わってきた。今日もヴィヴィアーヌと一緒だ。


「僕たちも一緒に音楽活動しながら人生を共に歩んでいくことに決めたんだ」


よく見ると、ヴィヴィアーヌの左の薬指にはキラリと光る指輪が輝いていた。


「まさか、アードルフ兄、結婚するの?」

「まさかってなんだよ。するよ。僕もそういう年齢だ」

「それにしても、早すぎなんじゃ……」


口を開きかけたフローレンスの唇を、コンラートがそっと指で塞ぐ。


「人それぞれだよ、フローレンス。おめでとうアードルフ!ヴィヴィアーヌ嬢!」

「おめでとう!」


皆でお祝いを言う。


「ありがとう。人生のパートナーもできて、なんだかこれからだって勇気が湧いてくるんだ」


ヴィヴィアーヌ嬢が優しく微笑んでアードルフを見ていた。


(アードルフと同じスピードで進んで行くことができる人ね、彼女は)


恋にのめりこむアードルフを見守れる彼女はピッタリだと思った。


「前も尋ねたけど、ルイーズたちは結婚しないの?」


アードルフに聞かれた。


「私たちはまだ...........。お父様たちもまだそこまでは考えていないし」

「そうなのか。君たちのことも応援しているよ」

「ありがとう」


友人たちは人生の決断をして進んでいく。


(人は人だわ)


自分とレウルスはやっと正式に恋人同士になったばかりで、結婚はまだまだ先だと思ってしまう。事実、父は難色を示しているに違いない。


………無事に卒業演奏を終えた日の夜、屋敷に戻ると夕食をゆっくりと楽しんだ。


「クレメンテはギャエルと最近、会っている?」

「この前、お茶をしたよ。ギャエルはソロでオーケストラと共演するらしい」

「すごい!」

「それは気になるな」

「僕も刺激されたよ。ソロ活動できるのは嫉妬する」


ルイーズたちはクレメンテの言葉にうなずいた。オーケストラとソロで共演できるなんて本当に一握りの人間しかいない。


「まずは、私たちのトリオをしっかりと成功させましょう」

「ああ」

「そうだね」

「そういえば、アードルフはレイニーさんとのデュオの話はどうしたのかしら?」


レウルスがレイニーからなにか聞いているのではないかと尋ねた。


「アードルフはどちらも頑張るらしいぞ」

「メッツォとは距離があるから大変ね」

「そうだな」


まさか、レウルスも自分の兄とあのアードルフがデュオを組むことになるとは思っていなかっただろう。ルイーズも未だ、不思議な感じがしているくらいだ。


人は人だと思うことにしたルイーズではあったが、上に進学しても在籍期間は2年間である。


本格的にこれからどうしていくべきか考えなくてはならないと思ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る