新たなペアと新たなトリオ
アードルフは、ヴィヴィアーヌ嬢と話して確信したらしかった。
「ヴィヴィアーヌ嬢はとても話しやすかったよ」
あれから、アードルフはコンラートと共に頻繁に食堂に顔を出すようになっていた。
「彼女はアードルフ兄よりも2歳年上だった?」
「ああ。穏やかで包み込んでくれるような人なんだ」
(アードルフって甘えん坊だから、彼女のような人が合っているわね)
聞きながらルイーズは思った。
「ヴィヴィアーヌ嬢に付き合っている男はいないのか?」
レウルスが聞く。
「いないと言っていた。どうやら、失恋してこちらに戻って来たみたいなんだ。デュオの相手だったらしい」
「まあ.......そうだったの」
デュオの相手とそのような事情で解散したのだとは思わなかった。
「僕はツイてるよ。ヴィヴィアーヌ嬢を堂々と誘える」
アードルフは彼女をさっそくデートに誘っているらしい。
「ルイーズ、未来は分からないって言ってたけど、こういうことだね」
ニコッとした顔でアードルフに言われた。ルイーズはうなずいた。
「そういうことよ」
ルイーズもニッコリと微笑む。
もう、寂しいという気持ちにはならなかった。
「ところで、ギャエルはなんと言っているの?ヴィヴィアーヌさんとデュオを組んでいるでしょう?」
「むしろ、僕とヴィヴィアーヌ嬢がデュオを組めばいいんじゃないかって言ってる」
「あら、アッサリ。......アードルフたちが組んだら、美男美女で人気が出そうね」
「今日のデートで、ヴィヴィアーヌ嬢にさっそくそのことを提案するつもりなんだ。イザベラ夫人たちにはすでに昨日、交渉しに行った」
「随分と動くのが早いのね!」
驚いていると、フローレンスが言う。
「アードルフ兄、張り切ってるね。まあ、良かった」
(きっと、皆、そう思っているわ)
アードルフは強そうで、もろいところがあるのは皆が知っている。だから、彼がやっと前に進めそうで一同、ホッとしていた。
彼らと別れると、ルイーズはレウルスと練習室へと向かった。
「アードルフのやつ、やっと落ち着きそうで良かった。やつの話だと、相手もまんざらじゃなさそうだし」
「ええ。彼には側に寄り添う人が必要よ」
「オレはちょっと心配だったから」
レウルスはそう言うと、ルイーズの手を握る。
メッツォに帰ってきてからよく2人で行動しているのもあって、だんだんと自分たちの付き合いは認知されつつある。
レウルスが人目を気にせず、こうして手を握ってくるのも増えていた。
「レウルス、そうやって気持ちを分かりやすく伝えてくれるのは嬉しいわ」
「オレは分かりにくいか?」
「たまに。......あなたと初めてキスした時は特にそうだったわ。私はとても傷ついたし.........複雑になってしまったでしょう?」
「あれは本当に……反省している。なんと言えばいいのか分からなかったんだ。ごめん」
「行き違いが起こるようなことはもうしないで。だから、きちんとあなたの気持ちを伝えてね」
「ああ、必ず」
レウルスが握った手に少し力をこめる。ルイーズは笑顔で応えた。
………しばらく後、イザベラ夫人たちに呼ばれて新たな計画を告げられた。
「メッツォでの演奏会は成功だったけれど、また、呼んでもらえるようでないと。ギャエルは新しい方向で進みたいみたいだから、彼は今度はソロで考るわ。というわけで、あなたたちは新たなメンバーでトリオを組むのよ!」
夫人はマヌエル氏と付き合いだしてから、すっかり商売上手になっていた。
「新たな人とは誰ですか?」
レウルスが問う。
「クレメンテ、というピアニスト。あなた方が連れて来たでしょう?彼のちょっと控えめな感じが、あなた方に丁度いいわ」
「クレメンテさんを?」
「ああ、彼か。彼とならいいものがつくれるかもしれない」
レウルスは乗り気だった。トリアに向かう列車の中で彼といろいろと話していたようである。
「レウルスが良いのなら。私もピアノとの三重奏を組みたいと思っていたの」
「まあ、スタンダードな編成だものね。失敗がないスタイルよ」
というわけで、後日、クレメンテも招集されさっそく打ち合わせに入ることになった。
「クレメンテは、即興もいけるしいいな」
クレメンテの能力をレウルスもかなり買っているらしい。
ルイーズも彼の演奏を聴かせてもらったが、彼は著名なコンクールで入賞以来、目立った活動をしていないものの、相当な実力を持つ人だと感じた。
「彼の演奏は人を惹きつける魅力があるわ」
「地味ではあるが、着実だな」
彼は、言葉は少ないがピアノに対してとても真面目だった。ピアニストだから当たり前ではあるが、ギャエルの言うように放っておくと、本当にずっとピアノを弾いている。
ちなみに、トリオを組むとなった際、レウルスとルイーズはお互いを気軽に名前で呼び合うことに決めた。平民出身のクレメンテは最初こそ気後れしていたが、ふたりに強引に押される形で了承したのだった。
そんなクレメンテは王都で1人暮らしをしている。彼の故郷はトリアの地方都市で遠い。
「クレメンテは、きちんと1人で生活できるのかしら?」
「メッツォでも1人で暮らしていたから大丈夫だろ」
「でも、きちんと食事もしているのか怪しいわ。とても痩せているし」
「それは、オレも思う」
彼はトリアの治安が微妙な地域の安アパートに暮らしていたのだった。
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