美女ピアニストの登場と恋の予感
ギャエルがクレメンテと“ギャエル&クレメンテデュオ”という名で活動を始めた。
が、評判はあまり芳しくなかった。
「ほら、やはり華やかさに欠けるのよ。ギャエルのいいところは、高い演奏力と奇抜さなの。だから、やるなら相手にはもう少しパンチのある人か、あなたを引き立てる人いいのよ」
イザベラ夫人が腕を組んで言っている。マヌエル氏も同じ意見だったらしく、ある日、ヴィヴィアーヌというピアニストを連れて来た。
「彼女はオリオール子爵家令嬢で、バダンテール音楽院卒業後に他国で活動していたんだが、こちらに戻って来たんだ。ギャエル君と合うのではないかな?」
ヴィヴィアーヌ嬢はふんわりとした雰囲気の女性だった。
「はじめまして。トリア出身なのですが、ほかの国も知りたくてバダンテール音楽院に進みました。ペアで活動していた相手と解散してしまったので、こちらに戻ってきました」
個性の強いギャエルと真反対の大人しそうなヴィヴィアーヌ嬢はパッと見た感じ、良さそうな組み合せに見えた。
「う~ん」
ギャエルはなんだか微妙そうな顔をしている。
「ずいぶんとお淑やかなお嬢さんだなあ。オレと合うかなあ?」
彼はブツブツと言っていたが、クレメンテとのペアが微妙だったのもあって大人しく組むことにしたのだった。
..........食堂でフローレンスが相性の悪い教師のグチを言っていると、アードルフとコンラートがやって来た。
練習室にこもり切りになっているから彼女を心配してコンラートがよくこちらに来るのだ。アードルフはそれについて来ている。
ちなみに、食堂は上に進んだ者たちも使えた。
「........ギャエルが新しくペアを組んだって?」
「ええ。ギャエルの良いところも出せるし、彼女の穏やかな雰囲気も音楽に活かせている気がするわ」
「へえ。一度、見てみたいな」
「今夜、街の小規模なホールで演奏会をするのですって。行ってみない?」
誘うとアードルフたちも来ることになった。
「じゃあ、後でまた」
アードルフたちと別れると、いつものようにひたすら練習と作曲などに追われたのだった。
………夕方、アードルフたちと再び合流すると、フローレンスがゲンナリとした顔をしていた。
「フローレンス、相当、しごかれているのね」
「もう、冗談じゃないわ。感性が合わない。今さら変更できないし、地獄」
「今夜は、ギャエルたちの演奏会で気分転換をしましょう。なにか得るものがあるかも」
「そうね。そうでありたいわ」
疲れ切っているフローレンスをコンラートが優しくサポートしていた。
(コンラートはいつもフローレンスに優しいわね。微笑ましい)
チラリと、レウルスを見ると目が合った。
「なにか?」
「いいえ。なにも」
レウルスは基本的に優しいが、コンラートほど気が付くタイプではない。
(フローレンスがちょっとうらやましい)
レウルスは割と淡泊、アードルフだとベッタリ過ぎ、2人を足して2で割るとちょうどいいと思った。
(そうは世の中、うまくいかないわよね)
会場に着くと、小規模な会場ながら人で埋まっていた。イザベラ夫人たちが上手にチケットをさばいたらしい。
「席に着きましょう」
席につき、ギャエルたちが登場するのを待つ。しばらくすると彼らが登場してきた。
拍手で出迎えるが、ふと横を見ると、アードルフが拍手しておらず真っすぐ前を見ていた。
「?」
その後はすぐに会場も暗くなり、アードルフのことを忘れて演奏に見入った。
「ギャエルは本当に独創的な演奏スタイルね。目が離せないって彼のことよ」
演奏終了後に皆、それぞれで感想を話していると、アードルフが口を開いた。
「僕、やりたいことが見つかったよ」
突然の言葉に皆が彼を見た。
「レイニーとデュオをやるんだろう?」
レウルスが言うと、彼はうなずきつつ言葉を続ける。
「そちらもやるが、新しいペアでの活動もしたい。彼女が気になるんだ」
「彼女??」
アードルフの発言に皆、反応する。
「気になるって、まさかヴィヴィアーヌ嬢のこと?」
「そう、彼女だ。なんだか分からないけれど、彼女を見た瞬間、この人とペアを組まなくちゃと思ったんだ」
「それってつまり、アードルフ兄が一目惚れしたってこと?」
「えっ!?」
「なんで驚くの?アードルフ兄の話、そういうことでしょ?」
「.......とにかく、楽屋に挨拶してくるよ!」
アードルフが急いで楽屋の方へと消えていく。
「アイツにも春が来たみたいで良かったな。とはいえ、彼女に相手がいないのかは分からんが」
「アードルフに新しい春……」
思わずつぶやいた言葉に、フローレンスが返した。
「なに?寂しくなっちゃった?アードルフ兄だってそろそろ新しい恋にいってもらわないと。心配で私も結婚できない」
「おいおい、私との結婚はすでに決まっている」
コンラートが慌てて言う。
「寂しいのか?」
レウルスに小声で聞かれた。
「いえ。良かったと思っているわ」
本当は、ほんのちょっと寂しかったのは自分だけの秘密にしたのだった。
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