運命が始まった思い出の場所
一晩明けて、朝食の場にはレウルスもいた。
なんだか疲れ切っていた。
父も兄もあまり料理に手をつけていない。皆、気分が悪そうだ。
「お父様たち、ずいぶんと遅くまで話してたようね」
「ああ。こんな時でもないといろいろと話せないだろう?だが、疲れたな」
「もう、朝からそんな調子でお仕事はできるの?」
「やるさ。僕は優秀な秘書官だぞ。やる時はやる」
兄のルースが強がって見せるが、目の下にはクマができていた。
「ルイーズたち、今日はどうする?練習か?」
「ええ。レイニーさんがフルンゼの練習場を使っていいといってくれたから、そこで練習をするつもりよ」
「我が家でもいいのに。そしたら、いずれギャエル君もこちらにやってくるから彼とも話せただろうし」
「ギャエルも尋問するつもり?やめてね。彼はそういったタイプではないの」
「気難しいのか?気になるな」
「そのうち会うことになるから紹介するわね」
レウルスは気分が悪いのか一言も話さない。
「大丈夫?練習できそう?」
心配になって声をかけると、レウルスの眉間にシワが寄った。
「大丈夫だ。朝食が済んだらさっそく練習場に向かおう」
「ええ」
王城勤めの父と兄を見送ると、ルイーズたちも懐かしいフルンゼの練習場に向かう。馬車で揺られているレウルスの顔色がなんだか悪くて気になる。
「馬車の揺れがつらいようね。降りてゆっくり歩いて向かいましょうか」
「いや、それだとだいぶ歩くことになるだろう。平気だ」
「でも、気分悪いまま馬車に揺られているのは良くないわ」
ルイーズは御者席とのしきりをコンコンと叩いて声をかけた。
「私たち、ここから歩いて行くわ。楽器だけ練習場へ先に運んでおいてくれる?私たちが到着するまでそこで待機していて」
「かしこまりました」
渋るレウルスと馬車を降りると、久しぶりにメッツォの街を歩いた。
歩くうちに、レウルスの調子も戻って来たようだ。
「ねえ、レウルス。せっかくだから寄って行きたいところがあるの」
「どこに?遠回りになると自分が大変になるぞ」
「いいの。疲れたらカフェで休めばいいのだわ」
「先に御者たちを行かせただろ。放っておくのか?」
「我が家の御者は優秀よ。待機時間が休憩になって丁度いいでしょう」
街の中心地にやってきた。
ここはレウルスと出会った本当の始まりの場所だ。こうして彼と両想いになって思い出の場所を歩くなんて、なんてステキなのだろうと思えた。
「この場所、なんだか分かる?」
期待しながら聞いた。
「中央広場だな。メッツォでも人気のある場所だ」
「そうだけど、それだけ?」
「どういうことだ??」
レウルスは肝心なところでカンが悪いと、ルイーズは不満に思う。
「本当に分からない?週末は特に賑わうわよね」
少しだけヒントを言う。
「週末?週末は大道芸だとか出るな。それがなにか?」
「もう!察しが悪いわ!……ここは私があなたを初めて見た場所よ!」
「あー、なるほどな」
思ったよりも反応が薄い。少し拍子抜けした。
「そんな薄い反応?」
「オレは、ルイーズをその時に知らなかったから。声をかけられたわけではないし」
「そうだけど」
ルイーズは自分の人生を変えた運命の場所だと思っていたから、レウルスが淡々としているのがちょっと気に入らない。
「私の思い出の場所なんだから、もう少し堪能したいわ。あのカフェに入って少し休憩しましょう」
以前、ジーナと聞き込み調査をしたカフェにレウルスを連れて行く。
お茶を頼むと、しばらくして店員がお茶を運んで来た。
「おーい、機嫌を直してくれ」
レウルスが人差し指でルイーズの頬を突いてきた。お茶が来るまで黙っていたから機嫌が悪いと思ったらしい。事実そうなのだが。
「だって、私はレウルスをここで知って、フルンゼ楽団の門を叩いたのよ。運命が変わった場所だわ」
「......悪かった。オレを見つけてくれてありがとう」
手を握られる。レウルスのたった一言で、怒っていたのも忘れた。
「.......早くレウルスと堂々と腕を組んで歩きたいわ」
「オレもだ。だが、ここにはルイーズのことを知っている者が多いだろう?ルイーズが悪く言われるようなことはしたくない。今は控えよう」
「分かってるわ」
ルイーズたちの席の近くに、老夫婦がのんびりとお茶をしていた。
(ああやって、私たちもいずれのんびりとお茶をできるのかしら……)
「そろそろ行こうか」
「ええ」
席を立つと、店を出る。練習場の方に向かって歩いた。
「……さっき、横にいた老夫婦、とてもいい感じだったな」
「あなたも見ていたの?」
「ああ。ルイーズが見ているものはオレもちゃんと気にしているさ。あの老夫婦みたいになれたらいいな」
「……うん」
レウルスから将来の話をされたのは初めてで、ルイーズは感激した。
(これはプロポーズみたいなものよね)
彼と一緒になるにはまだ試練があるが、この人とどうしても結婚したい。
しばらく、なんだか恥ずかしくて黙々と歩くと、懐かしいフルンゼの練習場に辿り着いた。
気を抜いていた御者がこちらに気付くと、急に背筋をピンと伸ばして馬車の中にあった楽器を渡してくれた。
「ありがとう」
レウルスが扉をノックすると、勢いよく扉が開いた。
「オリビア!!」
「レイニーさん!!」
思わずレイニーに飛びつくと、抱き合って再会を喜んだのだった。
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