親友になれる?

ヘンリーがとても丸くなったから、話すことが楽しい。


「その話しぶりだとアードルフを見捨てていないようだな?」

「見捨てるなんて。.....離れていた期間もあったけれど、今では友人になったわ」

「付き合っていた者と友人などになれるものか?」


元婚約者であったヘンリーとこうして気さくに語り合っているのに、なにを言うのだろうとおかしくなった。


「じゃあ、この時間はなんなの?ヘンリー様と私は、良い友人になれたのだと思うけれど?」

「オレたちが友人?.....せめて親友だろう?」

「まあ、ヘンリー様ったら」


ルイーズがクスクス笑うと、ヘンリーが微笑んだ。


(こんな柔らかい笑顔を見たのは子供の時以来かも)


「ヘンリー様と親友になれるのなら、とても嬉しいわ」


ルイーズの言葉にヘンリーが困ったように笑う。


「今だから言うが、オレは……素直になれなかった。お前がきちんとしていたから、はみだし者のオレはなんだか比べられているような、責められているような気がしてな」

「......そう思っていたのね。あなたは、はみだし者なんかじゃなかったわ。マジメなところもあったもの。もっといろいろと話してくれればよかったのに」

「オレはプライドが高いんだ」

「そうだったわね」


ニッコリして言うと、ヘンリーが眉をわざと寄せて気難しそうな顔をして見せる。


「そんなお茶目な姿を見るのは子どもの時以来ね。.......私、ヘンリー様とこうして話せるようになってとても嬉しいわ」

「オレもだ。後悔している」

「後悔……。あなたを変えてくれたのはリリアン様のおかげよね?」

「そうだな。でも、いつでも良い関係を保つのは難しい」


ヘンリーが遠い目をした。


「......その、リリアン様とはなにがあったの?」


改めて聞くと、ヘンリーがこちらを見た。


「.....ルイーズは、子どもが欲しいと言われたらどうする?」

「え?」


ヘンリーとの婚約が無くなってから、子どものことなど考えたことが無かった。


「今は、夢もあるから子どものことは考えていないわ。しかるべき時に欲しいとは思っているけれど。……リリアン様とのケンカはそのことなの?」

「そうだ。リリアンはルイーズみたいに特にやりたいことなんてないと思っていたから、早く子どもをもうけたいと思って言ったんだ。だが、リリアンは違ったらしい」


ハア、とヘンリーがタメ息をつく。


「ヘンリー様は子どもが欲しいけれど、リリアン様はまだ子どもが欲しくないということ?」

「そうだ。子どもの話をしたら、まだ、そういう時じゃないと言って怒ってな」

「まあ……」


リリアンらしい、正直な主張だなと思った。


「彼女はまだ2人で過ごしたいのね」

「オレは、早く安定させたいのだがな」


結婚したとしても、こうしたところで考えの違いが出てくるものなのだなと、感じた。


「ヘンリー様も焦らなくていいのではないかしら?それに、リリアン様ももしかしたら、なにかやりたいことがあるのかも」

「留学なんてされたら困るぞ。誰かさんみたいに」

「冗談が言えるなら大丈夫ね」


ヘンリーが笑った。


「それは、そうと。オレはルイーズはアードルフじゃなくて、あのレウルスという者と恋仲になるものだと思っていたのだが違ったのか?」


急にドキリとするようなことを聞かれた。そして、相変わらずヘンリーは妙に鋭い。


「......レウルスも私もメッツォで凱旋演奏会をするという夢があって、そういうことは考えないようにしているのよ」

「ということは、演奏会が無事に終わったら付き合うこともあるということか」

「……どうして、そんなことを聞くの?」


警戒するように見ると、ヘンリーが言う。


「オレが以前、言ったことを忘れているようだな。オレは、アードルフと別れたらお前を受け入れる用意があると伝えたぞ」

「え……」


(まさか私を側室にするとか考えている??)


ヘンリーは、まだ自分を己の所有物にしたいのだろうか。


「おい、オレは無理やり側室になんてしないぞ。心が伴わない関係は面白くないし、虚しいからな」

「では……」


ヘンリーがこちらに少し近づく。


「だが、オレはルイーズの役に立つ男だと証明したい。今のオレならそれができるつもりだ。........それに、いろいろと満足させる自信があるぞ」

「いろいろと満足って?」

「オレは剣が得意だし、体力には自信がある。寂しく寝るなんてことはないということだ。それだけでなく……」


ルイーズは慌てた。なんだか、とんでもないことを聞いた気がする。


「ちょっと、ストップ。あの!」


ルイーズが慌てふためくとヘンリーがニヤリと笑った。


「アハハ」


(え、からかわれただけ?)


「もう、からかわないで!」

「からかってなんかない。リリアンが妻だから正妻にはできないが、側室という手段もあるとは言っておく。たとえ、側室だといってもオレにとっては家族だ。不自由させるつもりはないし、音楽がやりたいなら最高の環境を与えてやる、そう言いたかったんだ」

「気持ちは嬉しいわ。……だけど、それはお断りしておくわね。リリアン様に恨まれて殺されちゃうわ」


冗談ぽく言うと、ヘンリーが目を細めた。


「……ルイーズ、これからは“親友”としてよろしくな。いつでもオレを頼ってくれ」


ヘンリーが手を差し出してきた。ルイーズは迷わずその手を握ったのだった。

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