懐かしきメッツォ、ただいま
前期の試験が終わると、さっそく長い夏季休暇に入った。
ルイーズはソワソワした気持ちでメッツォに行くための準備をしていた。
「久しぶりのメッツォだわ。ジーナも楽しみでしょう?」
「はい、それはもう」
ジーナは、トリアに来てからもずっとルイーズの側にいてメッツォに帰っていなかった。
「デニスも来るのよね?」
「はい、両親に紹介しようと思っています」
デニスは、トリアの下級貴族出身だと聞いていた。異国の下級貴族をジーナの家族は歓迎しないだろう。
「うまくいくといいわね。もし、私の口添えが必要なら遠慮なく言ってね。デニスの働きは私も高く評価しているの。それに、彼にはこれからも役に立ってもらいたいと思っているから」
「心強いお言葉です。お嬢様の評価が高いとなれば、うちの両親もあからさまに反対はしないでしょう」
デニスはどうしたのかと聞けば、髪の毛を切りに行っているという。ジーナの両親に挨拶に行くのに身だしなみを整えているようだ。
「私もなにかお手入れしたくなるわ。久しぶりのメッツォだもの。キレイになって帰国したいし」
「お嬢様はいつでもおキレイですよ」
鏡の前に立つと、2年前より少し大人っぽくなったなと自分で思う。
「本当に帰国するのが楽しみだわ」
…………5日後、懐かしのメッツォにルイーズはいた。
ギャエルはメッツォで知り合いのピアニストに会うとのことで一緒ではなかったが、レウルスとは一緒に帰って来た。
「レウルス、とっても懐かしいわね。駅前の建物が新しくなっているわ」
2年前より少し変わった街並みを見て、懐かしんでいた。
「ルイーズ、さっそく屋敷に向かうのだろう?オレも実家に顔を出してこようと思う」
「ええ。では後日また会いましょう。フルンゼにも顔を出したいし」
「ああ」
レウルスと再び会うことを約束して実家に向かう。
「あらまあ、私が好きなバラがたくさん植えられているじゃない」
コルネ公爵家ではバラがキレイに咲いていた。
「夏場でも咲くバラなんて見たことがないわ。新種?」
「旦那様がお嬢様の帰国に合わせて植えさせた、と聞いています」
馬車から見える我が家の庭は大層、キレイだった。
「お父様にお礼を言わないと」
手元にはお酒好きな父のためにトリアのワインを用意していた。
玄関に着くと、デニスのエスコートで馬車から降りる。
「お父様とお兄様はまだお城よね?」
出迎えてくれた執事に尋ねると、そうだと言う。
「でも、お帰りは早いと思います。数日前から旦那様たちは待ちかねてらっしゃいましたから」
「ふふ、そうなのね」
屋敷に入ると、自分の部屋に直行した。長く空けていたから気になる。
部屋はきちんと掃除され、2年も空いていたとは思えないほどだった。
「部屋もキレイに保たれているわ。ありがとうね」
ルイーズがメイドにニッコリすると、新人らしいメイドは驚いたような顔をした。
「そんな、もったいないお言葉を!当然のことをしたまでです」
恐縮したように頭を下げた。
「これ、トリアのお菓子よ。あなた方で分け合って食べてね」
使用人たちにもトリアの美味しいお菓子を食べさせたくて、大量に持って帰って来ていた。
デニスが力持ちなので全て運んでくれる。デニスの力持ちっぷりには、毎度助けられていた。
「ありがとうございます!」
メイドは勢いよくお辞儀をし、少し照れたように顔を上げると下がった。
「ふふ、良いことをしている気分だわ」
「良いことをしているでしょう。お嬢様の株は上がりまくりますよ」
ジーナも笑っていた。
「屋敷内の反応はともかくとして……私のメッツォでの評判はどうなっているのかしら?」
「私も離れていましたから、ちょっとそこのあたりは……。あとで情報を集めて参ります」
「頼んだわ」
しばらく休憩すると、列車の中で弾けなかったバイオリンを取り出した。
感覚がおかしくならないように指だけを使って音を出さずに練習をしていたが、やはり音が出せると、全然違う。
ちなみに、列車の中ではレウルスも同じように指の練習をしていた。彼は、手のひらに収まる小さなボールを使って指の感覚を鍛えていた。
(もう、レウルスに会いたいと思ってしまうわ)
レウルスの実家は街から少し外れた所にあるらしいから、戻って来るまで時間がかかるかもしれなかった。
(そう言えば、レウルスの家族の話って詳しく聞いたことがないわ)
兄のレイニーはフルンゼ楽団で会っていたが、彼らの両親についてはあまり聞くことがなかった。
(戻って来たら、聞いてみよう。だって、そのうち家族になるかもしれないのだし)
恋人だとは公表できてはいないけれど、レウルスとは人生を共にしてはいいと思えるだけの信頼関係を築いていると感じている。
だが、レウルス本人には将来のことを具体的に聞けずにいた。
(レウルスのことだから、メッツォでの演奏会が成功するかどうかも私たちの今後に影響すると考えているのでしょうね)
レウルスは真面目でガンコなところがあるから、きっといろいろと考えているのだろうと思った。
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