アードルフとレウルスの化学反応

最終学年になって忙しい。


だが、ウイナ音楽院に通う生徒は基本的に音楽家を目指しているので、ほかの学校のように職を求めてあくせくとはしていない。普通の学校とはそのあたりが違った。


「最終学年は定期演奏会があるよね」

「なんだかんだで結構あるよな」


ディーターとギャエルが話している。


「ルイーズ、ドレス探しに行かない?」

「コンラートと行かないの?」

「コンラートは研究院に進むから、そちらで忙しいみたい」


コンラートとアードルフは研究院に進み、より専門的に音楽を学ぶ予定だ。ちなみに、研究院は思ったよりも音楽院の近くにあった。


「同じ敷地にあるからルイーズに会いやすいな」


アードルフは相変わらず、誤解を招くようなことを平然と言う。


「お前、すでに関係は終わっているだろう。変なことを言うな」


レウルスがピシャリと言う。


「僕はいろいろと間違えて学んだんだ。いつでも前向きなだけだよ」


このところ、アードルフは以前のように明るさを取り戻していた。彼は、傷つきやすいところがあるが、普段は明るくて社交的な人だ。


(アードルフのいいところだけど、無理して欲しくないわ。彼は頑張ろうとするから)


アードルフが気にはなるが、寄り添おうとすればレウルスの機嫌が悪くなるし、彼とは距離を保つようにしている。


(仕方ないわ。もう別れているのだから)


「ルイーズとアンタ、付き合っていたんだった?」


ギャエルがズバリ尋ねてきた。彼も食事会に参加していた。


「ああ、付き合っていたよ。今はちょっと今は離れているけど、彼女は魅力的だよね」


アードルフがまた微妙なことを言ってくる。


「ちょっと、アードルフ!」


ルイーズが焦ると、アードルフが構うことなく続ける。


「音楽と一緒で離れて分かることがあるし、身につくこともあるんだ」

「アンタって詩人みたいだな」


ギャエルはその言葉でなんだか納得したみたいだった。


(今の言葉で納得できてしまうギャエルは、やはり芸術の感性に長けている??)


そんなことを考えていると、隣に座っていたレウルスがひざ上にあったルイーズの手を握ってきた。


(ヤキモチよね)


......彼との屋敷でのこっそりデートは続いている。


人に知られないように付き合うのは正直、面倒だしイヤなのだが、ゴーチエ侯爵みたいな人も少なからずいる以上、慎重にするしかない。


それに、夏にはとうとうメッツォでレウルスとギャエルと共に演奏会を開く。今はそちらに気がいっている。


.........春の演奏会は、フレッシュな若手音楽家の演奏会ということで音楽好きな人々が観に来てくれた。


音楽院の教師たちも演奏会終わりに観客を見送るなど、コンクールとは違って音楽院の宣伝を兼ねた演奏会であった。


「お姉ちゃんキレイ!」


オシャレして連れて来られた女の子がフローレンスに言うと、彼女は分かりやすくニッコリした。


「あらあ、小さいのによく分かっているわね。お嬢さんはおいくつ?なにを習っているの?」


愛想よく対応している。


「うわ~、あの人、コワイよ」


違う方向から男の子の言葉が聞こえた。そちらを見てみると、腕組みしたギャエルがなぜか観客にニラミをきかせていた。慌ててルイーズが駆け寄る。


「ギャエル、なにをしているの?怖がらせているわ」

「ニラんでなんかない。ボーッとしてたんだ」


どこが?とツッコミたくなった。ギャエルは見た目が厳ついため、誤解を受けやすい。


「ルイーズ、良かったよ」


アードルフから声をかけられた。花束を渡された。


「ありがとう」


(やっぱり、この人は気が回る人ね...)


微笑みながら花束を受け取ると視線を感じる。レウルスがじっとこちらを見ていた。微笑んでいた手前、気マズく思う。


「フローレンスにも花を渡したから、ルイーズが受け取っても文句は言わせないさ」


アードルフがチラリと耳打ちしてくる。


「もうすぐだね。メッツォでの演奏会」

「ええ。緊張するわ」

「それ、僕も行ってもいいかな?」

「え?」


そのとき、レウルスがツカツカと寄って来るのが見えた。


「僕さ、ルイーズのお兄さんと話す機会はあったけど、恋人になる時に交際の許可をもらっていなかったなと気になってさ。過ぎたこととはいえ、きちんと説明しておくべきだったと思ったんだ」

「どう説明するつもり?」

「その節はきちんと挨拶もしないままお付き合いしてしまって申し訳ありません、からきちんと始めるよ」

「えーと、そういうのは斬新ね」


別れた後に、当時の説明をするなんて聞いたことがない。


「おい、印象を良くしようたってもう遅いぞ」


途中から会話を聞いていたレウルスが割り込んできた。


「あのね、お前だってまだきちんと付き合ってないだろう?あれこれ言われたくないね」

「なんだって?誰のせいだと……」


彼らはすぐに言い合いになる。レウルスたちがどうして恋人だと公表しないかを知っていて、アードルフが刺激するからだ。


アードルフが皆の輪に戻って来てくれたのは嬉しいが、ちょっと頭が痛くなるな.....と思ったのだった。

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