◆第12章 故郷へ錦を飾る?

空を見上げてみれば

音楽院でも最終学年となり、なにかと忙しい。


「コンラートはこんなに忙しいのに、よく私たちと同じようにいられたわね」

「ルイーズはコンクールに応募しているからでしょう?音楽院生でも試験の手を抜いて、コンクールにも出られないレベルの人ならヒマだよ」


フローレンスがキツイ言い方をする。


「ちょっとフローレンス、声が大きいわ」

「本当のことを言っただけだもん」

「オレもそう思うぜ」


音楽院での庭で話していると、側で寝そべっていたギャエルも話に加わってくる。


「寝ていたと思ったら、きちんと聞いていたのね」

「寝てたんじゃなくて瞑想していたんだ。なかなかいいぞ。やってみろよ」


ギャエルは半身を起こすと、自分の横を指さす。


「まさか、そこに一緒に寝そべれとでも言うの?」

「ここ、ポカポカして気持ちいいぞ。自然を感じる。演奏にも活かせる」

「え、じゃあ、寝っ転がってみようかなあ」


フローレンスがギャエルの隣に行くと、躊躇なく寝っ転がった。


「ちょっと、フローレンス!」


フローレンスがギャエルの横で寝そべっていて、見ようによってはとっても仲良いカップルに見えないこともないわけで......。ルイーズは止めるべきか迷った。


「なにしているんだ?」

「あ、レウルスとディーター!ちょうどいいところにきたわ。あれをどうしたらいいかと悩んでいたの」


フローレンスたちの方を示すと、ディーターが反応した。


「いいな!オレも寝っ転がってみよう!いい案が浮かぶかも!」


最近、ディーターは、卒業試験に向けた作曲で行き詰っているらしい。ディーターはフローレンスの横に寝転ぶ。


「あ、ディーターまで!」


(これじゃあ、フローレンスが男性たちを侍らせているみたいだわ)


フローレンスはコンラートという婚約者もいるのだし、と考えていると、レウルスがルイーズの手を引っ張った。


「たまにはオレたちも便乗してみよう」

「え!?」


レウルスはルイーズの手を掴んだままディーターの横に連れて行く。


戸惑っていると寝かされた。ちなみに、ディーターの隣はレウルスである。


寝ころぶと、いつも見える景色とは違うことに気付いた。


「わあ……空が大きく見えるわ」

「なかなかいいだろ?見方を変えると、感じることも変わるもんだ」


ギャエルの言葉は説得力があった。


「……私さ、最近、コンクールでいい成績出せないんだよね。なんか悔しい」


フローレンスがポツリと言う。


「考えすぎてもダメなんだよ。結果は後からついて来るもんだ」

「ギャエルが言うと、なんだか説得力があるね」

「そうか~?」


ギャエルとフローレンスのやりとりを聞いていて、ルイーズもそうだな、と思う。


最近は、ギャエルもこうしてたまにいつものメンバーに加わることが増えたので、アードルフとコンラートがいなくなっても寂しさを感じずにいられる。


「ギャエルは卒業した後、どうするとか考えているの?」


ディーターが尋ねた。


「音楽で生きていくって決めてるぐらいだな。お前は違うのか?」

「オレは、演劇のような大衆音楽の方の音楽に携わりたい。本当はクラシックのピアニストになることを期待されて音楽院に入ったけどさ。ここまで来たらやり遂げるしかないよね」

「なんだ、お前、ちゃんと決めてんじゃねえか」

「私もチェロで頑張るわ。もっといろんな人とセッションしてみたいしね」


フローレンスも明るく言う。皆、漠然とではあっても大よその未来は決めているようだ。


「ルイーズはどうするの?」


ディーターに問われた。


「私もバイオリンを続けるわ。メッツォで凱旋公演をするのが楽しみだわ」

「オレもだ」


レウルスも言う。


「そう、そこにオレも加わるわけだ。夏はいっちょ、ブチ上げようぜ!」


ギャエルの言葉はお上品ではないが、気持ちが高まった。


………屋敷に戻ると、先日、父に書いた手紙の返事が届いていた。


《ルイーズへ


ルースから聞いた話ではお前はアードルフ君と仲良くやっていたと思ったのだが、すでに別れていたのだな。お前がヘンリー王子と婚約を解消した時は彼がいるから大丈夫だと思っていたのだが。


やはり、メッツォとトリアでは距離がある分、情報が遅れるようだ。というか、もっと、早く事実を知らせなさい!ジーナたちは一体、なにをやっているんだ!


とりあえず、言いたいことはほかにもあるが、レウルス君とペアで演奏会を開いて評判が良かったそうだな。尊敬する彼とのアンサンブルの話をぜひ直接、聞きたいものだ。


夏にはこちらに凱旋公演で帰って来るのだろう?ギャエルという注目株のバイオリニストも来るようだし大歓迎するぞ!早く、ルイーズに会いたい。


愛するパパより》


手紙を読んで笑ってしまった。


「“愛するパパより”なんて、私を一体いくつだと思っているのかしら?」

「旦那様の中ではお嬢様は、いつまでも小さなレディなのですよ」


ジーナに言われる。


「そういうものかしら。ジーナも親になったらそう思う?」


ジーナを意味ありげに見ると、ジーナがキッとした。


「………お嬢様、もしかして私が妊娠していると思ってらっしゃいます?? 残念ですが、ただの幸せ太りです。デニスがやたらと美味しいものを勧めてくるのです」


最近、ジーナがちょっとふっくらとしてきたから、もしや……と思って聞いたら違うらしい。


「幸せそうでなによりだわ」


自分のまわりの人が幸せそうだと、自分もなんだか幸せになれる気がしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る