お金のニオイに敏感な人たち
屋敷に馬車が着くと、気マズイ思いで馬車を降りた。
デニスが寄って来て言った。
「あー、トリアの馬車には小さな窓がついていますので」
「……普通、カーテンは内側についているものだろう」
「ホラ、さっきみたいなことが起きるのを阻止するためにも、外側についているタイプもあるんですよ」
「お前、見たのか?」
レウルスが睨む。
「馬車の中の重心が変わった気がして、もしやと見てみたら……。いやあ、すみません。オレの主はお嬢様ですからね。オレとあなたの仲でも守るべきところは守ってもらわないと」
「分かってる」
レウルスが顔を赤くして言う。ルイーズもあんな場面をデニスに見られたのかと思うと、恥ずかしくて真っ赤になった。
「あ、あのレウルス、ここまで来たのだし寄って行って。あなたがカフェに登場した理由も知りたいし」
「ああ」
屋敷に入ると、居間に案内する。
「それで、レウルスはどうしてカフェに?」
「気になったからだ。楽器店とは言え、男だって出入りする場所だ」
「心配して追って来たということ?」
「そうだ。結果的に追って来て良かった。まさかアードルフとルイーズが茶をしているとは思わなかったからな。デニスが教えてくれた」
デニスは楽器店に姿を現したレウルスをつかまえて状況を説明したらしい。それで、レウルスがカフェに乗り込んで来たのだった。
「その、2人でお茶をしていてごめんなさい。……アードルフを放っておけなかったの。彼、本当に丈夫かしら?」
「だから、それはルイーズが心配することじゃなくてあいつ自身が解決することだ」
「そうであったとしても、彼が壊れてしまいそうなほど悩んでいたから……」
「まさか、助けようとしているのか?」
「できるならば……」
レウルスはタメ息をついた。
「さっき、オレが言ったことを分かっていないようだ。それは必ずしもルイーズでなければならないわけじゃない。よく考えてくれ」
レウルスの顔は真剣だった。手を握られる。
「もし、オレが同じようなことを言ったらどう思う?イヤじゃないか?」
「…………イヤだわ」
「それが答えだ。……オレは、あいつに近づいてほしくない。どうしてもというなら、止める。絶対に」
「近づかないわ。.........フローレンスたちに頼むことにする」
「それならいい」
やっと、レウルスの顔が和らいだ。
「さっき、ルイーズがアードルフに抱きしめられている時に感じた感情をコレで表わしてみようか?」
おもむろにチェロを手にすると、レウルスが妙なことを言い出した。
彼の奏でた旋律は、ひどく陰鬱で悲し気だった。
「……とてもよく分かったわ」
おもしろいやり方だと思った。
そのまま、2人は音にどう気持ちを乗せるかという話になった。
(こんな話で盛り上がれるのはレウルスだからこそかもしれないわ)
結果的に、表現力の向上につながったし、ひょんなことから自分の演奏を見直すことができた。一度に奏でる音の幅も豊かになった気がする。
「レウルスと過ごす時間は最高よ」
ルイーズが言うと、レウルスはルイーズを優しく抱きしめたのだった。
.......その後、音楽院で再びアードルフと会うことはなかった。アードルフが気にしているのかもしれない。
フローレンスたちには、アードルフを支えて欲しいと頼んだ。彼らもアードルフとできた距離を気にしていたので、快く承諾してくれた。
アードルフの近況を知ったフローレンスは、“エレオーラを許さない!”と怒っていたぐらいだ。
(フローレンスたちに任せておけばきっと大丈夫)
その後、レウルスとはいろいろなことを話し合ったせいもあって、アンサンブルの仕上がりがとてもいい感じである。
先日、イザベラ夫人とマヌエルからこんなことを言われた。
「ねえ、あなた方、本当のペアになったら?」
思わずレウルスと顔を見合わせた。
「……仮にそんなことになったとしたら、批判する人が出てくる人がいるでしょう」
ルイーズが言うと、マヌエル氏が力説してくる。
「アードルフ様と別れてから何ヶ月も経つではないですか。あなた方は若い。次の恋にいってもいい頃だ」
マヌエルはやたらと付き合うことを勧めてくる。
「私も、正直、アードルフ様よりレウルスの方がルイーズさんに合っている気がするわ。同郷だからお互いをよく理解しているみたいだし。異国で互いに成功した者同士で愛に目覚めなんて宣伝したら皆、注目すること間違いなしだわ!」
彼らはお金になりそうなニオイに敏感だった......。
「そんな面白がられても。私は……いろいろとありましたので、レウルスに迷惑をかけたくはありません」
「オレもルイーズが見世物になるような売り方はなるべく避けて欲しいと思っています」
ルイーズとレウルスが言うと、夫人たちがうなった。
「ならば、仕方ない。“愛”をテーマにした曲を中心にセットリストを作ってそれとなく匂わせるか」
「衣装もお互いに共通のところを取り入れたら面白いわ」
彼らは勝手に戦略を練っていた。
(もう、この人たちにとって、私たちは商品でしかないのね)
メッツォにいずれ凱旋公演を行いたいといのは、レウルスとの共通の夢となっている。
あまり色物扱いされる売り出し方はしてほしくなかった。
そういうこともあって、こうしてペアで組むことになっても公の場ではレウルスとは距離を保つようにしている。
かなり忍耐力を強いられるが、結果としてそれは“限りなくあやしいペア”として注目されることになったのだった。
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