知られて.......

アードルフはかなり悩んでいるようだった。


(ミイラ取りがミイラになる、という状態ね……)


彼は助けようとしたのに、自分もその波に飲まれて苦しんでいた。


「……僕は以前、君にひどいことを言った。本当に申し訳なかった」


アードルフが涙を流しながら言う。いつも余裕そうだった彼のそんな姿を見るのはつらかった。


「……アードルフ、私になにかできることはある?」

「君は酷な選択をした僕に手を差し伸べるといういのかい?」

「あなたは私を助けてくれたでしょう?正直、私を苦しめたこともあったけれど、それでもやっぱりあなたは私の大事な1人だわ」

「君はお人よしだ。そして、真面目で……。僕はなぜ、君をもっと大切にしなかったんだろう」


アードルフは顔を手で覆う。肩が震えていた。


(彼が壊れてしまいそう……。エレオーラを選んで幸せになると思ったのに)


ルイーズはどうしたら良いか分からず、アードルフの手に触れた。


「苦しい時は助け合ってもいいと思うわ。1人で抱え込まないで」

「ルイーズ……」


アードルフはルイーズの手を握りしめたままむせび泣いた。


(この人がこんなふうに、声を詰まらせて泣くなんて──)


アードルフはかつて自分に“甘えて”と言ったことがある。今は、逆に彼が甘えたいのかもしれないと思うと、迷いつつ彼の隣に座った。


そのまま背中をさすると、アードルフがこらえきれずルイーズを抱きしめた。


「ごめん。本当にごめん。情けなくてごめん………」

「アードルフ……」


アードルフはつぶやきながら震えていた。


しばらく彼の背中を撫でる。すると、少しずつアードルフが落ち着いてくるのが分かった。


その時、突然、個室の扉がガラリと開いた。ビクッとする。


「なにしてるんだ!?」


冷たい目をしたレウルスがいた。


「レウルス!」

「どうして、アードルフとこういうことになっている?」

「……誤解しないでくれ。これには理由があるんだ」


アードルフがルイーズを離すと、庇うように言う。


レウルスはウサギのように真っ赤になったアードルフの目を見ると、冷たく言った。


「今さら、泣き落としか?そんなことはやめろ」

「レウルス、そんな言い方をしないで。彼は今……」

「理由はあるんだろう………だが、オレはこんなところを見てニコニコしていられるほど、心が広くないんだ」


そう言うと、レウルスはルイーズの腕を取って立ち上がらせる。


その様子を見ていたアードルフが言った。


「やっぱりお前は、ルイーズのことをずっと好きだったんだな?」

「違う。“好き”じゃなくて、“愛してる”んだ」


そう言うと、個室からルイーズを連れ出した。


馬車の所へ来ると、なにも言う暇もなく馬車の中に入れられる。馬車は屋敷に向かっていた。


「……誤解を招くようなことをしてごめんなさい」

「オレはまだ、世間的にはルイーズとはただの演奏家としてのパートナーだからな。怒るのはおかしいだろうな」

「レウルス……」


言い方からして怒っている。


レウルスは大きく深呼吸を2度ほどすると、こちらを向いた。


「……それで?どうしてああなったんだ?」


彼は感情的にならないように冷静になろうと努めていた。


「楽器店に行くと、アードルフに声をかけられたの。彼とはしばらく顔を合わせていなかったのもあって、きちんと話そうと思ったわ。彼は私のことを思って、人目が気にならないカフェの個室を用意してくれたのよ」

「人目を気にしたのはあいつだろう?」

「そんな言い方……。彼、エレオーラさんと娘さんとうまくいっていないみたいで、とても不安定になっていたの。私、彼が泣くところを初めて見て、どうしたら良いのか分からなくて」

「それで、あいつに抱きしめられていたと?」


レウルスの眉間はクッキリとシワが寄っていた。


「彼は謝っていたわ。情けなくてゴメンと……」

「その通りだな。自ら選んだくせに勝手だ」

「彼は本当に参っているようだったわ」

「それでも……!それでもルイーズはヤツに近寄ったらダメだ」


レウルスに抱きしめられる。


「分かるか?今のルイーズはかつてのアードルフと同じだよ。それは“同情”だ。やつはそれを勘違いして選んだのが今の姿だ。ルイーズにはそんなことをさせない」


ギュッと抱きしめられる。


「レウルス……」

「ヤツの悩みは自分で解決するしかない。答えなんて自分で出すしかないんだ」


レウルスがルイーズをすっぽりと包んでいた。


「私が……私が抱きしめられて安心できるのは、レウルスしかいないわ」

「安心させるだけじゃ足りない」


そう言うと、レウルスはいつになく乱暴なキスをする。息ができないぐらいだ。


やがて唇は首筋に降りてきてルイーズは焦った。


「レウルス、ダメ……!」

「そんなことを言われると、止めたくない」

「本当にダメ!……馬車の前を見て。カーテンのしきりが!」


馬車の前方に取り付けられた小さな窓のカーテンが開いていた。窓の外ではデニスが指でバツ印を作っていたのだった。

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