思いがけない再会と一筋の涙

レウルスとアンサンブル演奏会をすることになって以来、堂々と彼といられるようになった。


「結果的にこれで良かったのかもしれないわ。あなたは、なかなか厳しいけれど」

「そうか?伸びしろがあるから言いたくなるんだ。キツくならないように気を使っているつもりなんだが......」

「大丈夫よ」


今日も練習室で一緒に練習していた。レウルスと2人で練習していると、フルンゼにいた頃を思い出す。


「フルンゼの皆は、まさか私たちのペアで演奏会を開催するなんて想像していなかったでしょうね」

「かもしれないな。オレたちが予想以上に成長できたという証だ」


夢みたいだなと思う。でも、これは商業的なものであって、成功させねばならない責任感があるから緊張感がある。だから、時としてレウルスの言葉も厳しくなるのだろう。


分かっているけれど、ちょっぴり自分の時間も欲しい。彼にとっても自分だけの練習時間は貴重なはずだ。


「あのレウルス、私、今日は楽器店に行きたいの。クロスが毛羽立ってきているから新しいのを買いに」

「オレのを使うか?」

「いいの。新しい商品が出ているようだから、チェックも兼ねて行ってくるわ」

「では、今日の練習はここまでにしてオレも…」

「ひとりで行けるわ。レウルスはまだ練習するでしょう?全てを私に合わせる必要はないのよ」

「そうか……?」


彼は放っておくと、ずっと練習をしている人だ。割とすぐ納得した。


………一人、馬車に乗ると久しぶりにきちんと街を見た気がした。ここのところ、忙しくて音楽院で試験の対策とコンクールの練習ばかりしていたせいだ。


楽器店に来ると、目新しいアイテムが増えている。


「まあ、このクロスはずいぶんと目が細かいのね。とっても滑らかだわ。あら、こちらは初めて見る素材だわ……」


夢中で見ていると、名前を呼ばれた。


「ルイーズ」


懐かしい声で見なくてもすぐに分かった。


アードルフが立っていた。


「しばらくぶりね。同じ音楽院に通っているのに、あなたの姿を全然見なかったわ。コンラートは見るのに……」

「うん。僕は一時期、音楽院をよく休んでいたから個人的な課題も多く出ていてね。追われていたよ。音楽だけでなくやることもたくさんあったから余裕がなかった」


時間が経ったのもあって、彼と話す時間は穏やかだった。


「......このまま店の中で話し続けるのもなんだし、すぐそこのカフェでお茶でもどうかな?..........個室にすれば見られることもないと思うけど」


気を使ってくれているのが分かった。


「そうね。ここで会ったのもなにかの縁だわ。お世話になったアードルフとはきちんと話せるようになりたいと思っていたの」

「世話だなんて......。僕が先に行って個室で待っているよ」

「ええ。ありがとう」


クロスを購入して楽器店を出ると、そわそわした様子のデニスに事情を話してカフェに向かった。


店員に案内された個室にアードルフが落ち着かない様子でいた。


「なにを飲む?ルイーズはダージリンが好きだったよね」

「ええ。覚えてくれていて嬉しいわ」

「忘れなどしないよ」

「......それはありがとう」


お茶とケーキをいただくことにした。アードルフと2人でいた頃が懐かしいと感じる。


「その後はどう?順調?」

「.....そうだと言えるのかな」


アードルフは不穏な返事をした。


「まさか上手くいっていないの?」

「……正直言うと、良くない時もあるし、上手くいきそうだなという時と半々だよ。ヒセラは僕に懐いてくれていたけど、まさか僕が父親かわりになると思っていなくて、なんだか反抗するようになっちゃってね。そんなヒセラをエレオーラは邪険にしようとするし…」

「エレオーラさん、まだ不安定なのね」

「彼女はなんだかんだ言って“彼”を忘れられないんだ」


アードルフが悲痛な面持ちで言う。


「僕は………彼女らを守らなくちゃいけないと思って彼女ら選んだのに、間違っていたのかなと自信がなくなるんだ。だから、さっき、楽器店でルイーズを見かけて、思わず声をかけてしまった。本当は声をかけられる人間じゃないというのに」

「そこまで思いつめなくても........」


アードルフの頬に静かに涙が流れた。


(この人は困っている人を助けなければならないと、自分を追い込んでしまう人なのだわ...)


彼はエレオーラを恩人で大事な人だと言っていたから、どうしても忘れられずに彼女を選んだのが本心だと思っていた。けれど、改めて彼の話を聞くと、困っている人を助けずにはいられない情に厚い人なのかもしれないと思えた。


「フローレンスたちに悩みを打ち明けてはいないの?」

「……エレオーラを選んでから、彼らとも疎遠になっているよ。……勝手だが、君と一緒にいた時の方が幸せだったと思ってしまう」

「アードルフ……。そんなことを言ってはいけないわ」


アードルフの心の内を聞いて、どうしたら良いかと戸惑ったルイーズであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る