ロマンチストな彼との約束
ルイーズたちはアードルフがトリアに戻ったのを知った。
手紙を託した青年に、アードルフがまだ部屋に滞在しているかどうかを探らせに行ったのだ。
アードルフがひどく怒っていたから、しびれを切らして強引にルイーズを迎えに来たら厄介だと、レウルスが特に気にしたからだ。
レウルスは、アードルフが帰国したのを知って安心したようだった。
(アードルフは私の手紙を読んで、同じ答えを出したということよね……)
全ては終わったのだと、思った。
人と人の付き合いはあっけなく終わる。なんとなく感傷的になった。
「ルイーズ、なんだか悩んでいる顔だ。......後悔しているのか?」
「いいえ。考えて出した答えだもの。......でも、それとは別になんとなく悲しい気持ちになるのよ」
「悲しむなよ」
レウルスに抱きしめられる。
「これからはオレが支えるから。オレはもっと評価されるようになる。だから………」
レウルスが必死に言う。
「ありがとう。私もレウルスに見合う人になるわ。トリアに戻ったら積極的にコンクールに出るつもりよ」
「ああ」
レウルスはまだ、距離を保たなくてはというルイーズの気持ちを分かりつつも、キスしたい気持ちになった。
「ダメか?」
レウルスの指がルイーズの唇を撫でる。
「うん、まだ今はダメよ」
「昨日は許してくれた」
「……雰囲気に流されたのよ」
「今は?」
「ダメよ。本当にダメ」
レウルスが苦笑する。
「ルイーズは真面目だな。でも、そんなルイーズだから離れていても心配が増えることはない」
「減りはしないのね?」
「ルイーズは綺麗で魅力的だから。とても」
(こんなことを言う人だったかしら……?)
思わずレウルスを見ると、彼は顔を赤くする。
「……意外だという顔をしている」
「ええ。驚いたわ」
「ルイーズとアードルフの付き合いを見ていたら……しっかりとルイーズの心を掴んでいなくてはいけないと感じたんだ」
「レウルスではないみたい」
「オレは外に出さないだけで、ロマンチストだぞ」
レウルスの言うことがおかしくて、プッと吹き出した。
「あ、笑うのか?」
「うふふ。だって自分で言うのだもの。でも、音楽を愛する人は皆、ロマンチストだと思うわ」
「分かってるじゃないか」
レウルスもリラックスした笑顔になる。
「今の私が言うべきか迷うけれど、レウルスと離れるのは寂しいわ。手紙を書くわね」
「ああ。オレも書く」
2人で別れを惜しんだのだった。
………翌日、レウルスはクリスティアンやフローレンスたちにルイーズのことをくれぐれもよろしくと、何度も念を押して旅立って行った。
「もう少しゆっくりできればいいのにね」
「そういうわけにいかないだろう。彼も演奏旅行の途中だ」
コンラートの言う通り、レウルスは時間の許す限りめいっぱい山間の町で過ごして行った。
「それにしてもここでの演奏会は明日よね。スタッフはどうなったの?」
フローレンスはクリスティアンに問うと、彼は手を広げて言う。
「安心したまえ。今日の午後にもここに皆、集まる予定だよ。駅の方も急ビッチで復旧中だという知らせを受けている。あ、そうそう。ルイーズの侍女と護衛の彼も午後にはやって来るよ」
「本当!?」
「ならさあ、そのことをレウルスに知らせてあげれば良かったのに。あんなに心配して去って行ったし」
フローレンスが冷静に突っ込むと、クリスティアンが飄々として言う。
「不安な気持ちがある方が盛り上がるだろう?」
「悪い人だわ」
ルイーズが言うと、クリスティアンが真面目な顔をした。
「レウルス君がルイーズのことを大切にしているのをすごく良く分かるよ。彼は今の君にピッタリだと思うな」
「え……」
クリスティアンの言葉は嬉しいが、フローレンスたちの前で言うことじゃない気がする。
「ルイーズ。私たち、もうアードルフ兄と続けさせたいとは思ってないから安心して」
「ありがとう。トリアに戻ったら、彼ときちんと話し合うつもりよ。もう、彼の中でも答えが出ているのだろうとは思うけれど」
マティアスがルイーズの言葉を聞くと、ギターを持ってきて“恋のめぐり逢い”を奏で出した。あまりにも切ない旋律だから、胸がいっぱいになって泣きそうになった。
「もう、こんな時にその曲を弾くなんて反則よ」
(つい、アードルフと出会った時のことを思い出してしまったわ)
「愛するマティアス、ルイーズを泣かせないでくれ」
「ごめんなさい。愛は素晴らしものだと僕なりに伝えたかったのです」
すっかり緩んでしまっていた涙腺をどうにかしようとしてコテージの外に出た。
深呼吸していると、“お嬢様~!” という声が聞こえてくる。
声の方を見ると、ジーナとデニスが手を振ってこちらに向かっていた。
「申し訳ございませんでした!お嬢様、なにかとご不便だったでしょう? 」
「いえ、目新しい体験がいろいろとできたわ」
話していると、ジーナとデニスの立つ距離がなんだか近いことに気が付いた。
「.........あなたたち、もしかして付き合うことになったの?」
ルイーズが尋ねると、彼らは顔を赤らめたのだった。
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