甘い時間と皆への報告

だいぶ経ってレウルスが戻って来た。


「ルイーズ、移動しよう」

「え?どこに?なぜ?」

「交渉してコテージを空けてもらったんだ」

「交渉?」

「ああ。隣町の宿に泊まれる金とオレのリサイタルチケットをプレゼントしたら、快くコテージを譲ってくれたよ。早く空けられるように荷運びも手伝って来た」


ニコリとして言うレウルスに、クリスティアンたちが“おお!”と声を出す。


「君は交渉がうまいんだね」

「あちらさんがチェロ好きで助かった」

「レウルスやるじゃん!」


事情を聞いたフローレンスが背中をバンバン叩いた。


「ぐぇ.......おい、加減しろって」

「あ、ゴメン」

「ウソだ。痛くないぞ」


レウルスがおどけて見せている。機嫌が良さそうだ。


「君たちとルイーズをいつまでも一緒にいさせるわけにいかないからな」


そう言うと、レウルスはルイーズの荷物を新たなコテージへと運び出した。


「彼、スマートに解決したね」


レウルスの行動を見ていたクリスティアンが感心したように言う。フローレンスたちもうなずいていた。


新しいコテージは少し離れたところにあった。


「レウルス、ありがとう。彼らはいい人だけど、ちょっと居づらかったの」

「礼を言われることじゃないさ。あの2人がだとしても気を使うだろうし、オレもルイーズをあそこに置いておくつもりはなかったよ」

「.........彼らのことを気付いていたの?」

「ああ。やつら、そろいのシャツとタイをしていただろう?すぐにピンときた。この前の演奏旅行時に、そういった恋人同士を見たからな」

「そうだったの……」


冷静に状況を判断し、スマートにコテージの件を解決したレウルスがとてもステキに見える。


「レウルスはいつまでここにいられるの?」

「明日までだ。本当は側にいたいがな」


レウルスがルイーズに近づく。今は2人きりだった。


「抱きしめても?」

「レウルス……」


ルイーズが拒んでいないと分かると、そっと腕を回してくる。


「暖かい」

「オレで暖をとるなって」


いつかのやりとりだ。


あごに指が添えられて上を向かされた。顔が近づいてくる。唇が重なった。慎ましやかなキスになる。


「........イヤだったか?」

「いえ……。まだ、その、アードルフとは完全に終わったというわけではないから」

「さっき、手紙を届けさせていただろう?別れの言葉を書いたんじゃないのか?」


手紙を預けていたのを見ていたらしい。


「ええ。“関係を見直しましょう”とは書いたわ。彼が納得するかは分からないけれど。だから、それまではまだダメよ」

「真面目だな」

「そういうものでしょう?」

「そうだな。だが、オレはもどかしい」


レウルスに手を握られる。


「やっと、ルイーズがあいつとの仲を終わりにしようと決めたのに。こうして目の前にいるのに」

「........今は慎重であるべきだわ。ここにはフローレンスたちもいるし。彼らはアードルフの幼馴染なのだから」

「分かってる。夜はコンラートとオレで泊まるよ。ルイーズはフローレンスとここに泊まるといい」


レウルスの気遣いが嬉しくて微笑んだら、レウルスも微笑んでいた。頭を撫でられる。


「そうされるとレ……」

「レイニーみたいだって言うんだろう?」

「ええ」

「兄貴にルイーズと仲良くなったと言ったら、どう言われるかな?」


レウルスはもうルイーズと恋人になる前提で話をしているので、ついからかいたくなった。


「私、まだあなたと恋人になるとは言ってないわ」

「なに?オレとはダメか?」


レウルスが珍しく焦った声を出す。


「いいえ。アードルフとのことがきちんとしたら、あなたときっと......」


目を見つめながら言うと、レウルスは耐えられないといったふうに唇を重ねてきた。


「さっそくルール違反......」

「今の言葉、約束だぞ」

「.....ええ」


フローレンスたちに、アードルフに別れる手紙を送ったことや、コテージの件について話した。


「ついにアードルフ兄と別れると決めたのか........」

「彼が納得したらそうなるわ」

「もしも、アードルフ兄が謝ってきたらどうするの?許す?」

「………いいえ。もう、彼とは大きくすれ違ってしまったから。これからも同じことを繰り返したくないの」

「仕方ないね......」

「今回、アードルフには悪いところがいくつもあった。私としてもルイーズと幸せになってもらいたいと思っていたが難しかったようだ」


コンラートも納得したように言う。


「今後はオレがルイーズを支えていくつもりだ」


レウルスが宣言すると、皆がレウルスを見た。


「それって、いつも言っている同郷の仲間だからっていうのじゃなくて、ルイーズを女性として支えたいということ?」


フローレンスが聞く。


「そうだ。オレはずっと彼女を想っていたよ」


レウルスの言葉にルイーズは顔を赤くした。


(ずっとじゃないくせに........)


「じゃあ、アードルフ兄とルイーズが付き合っている間、レウルスは自分の気持ちを抑えていたんだ?」

「ああ。耐えていたよ、オレは」


レウルスの言葉に皆が暖かい目を向ける。


意外にも彼が心に秘めていた気持ちは、好意的に受け取られたのだった。

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