嵐後の再びの客人
アードルフが隣町に去って1日が経った。
フローレンスたちに起きたことを話すと、彼らに謝られた。
「ごめん。私がルイーズと一緒に泊まるべきだった。まさかアードルフ兄が訪ねて来ると思わなくて」
「いいのよ。起きたことをどういっても仕方ないわ。……それに、私は今回のことで分かったことがあるのよ」
「……それはなんだろうか?」
コンラートが質問してくる。
ルイーズはゆっくりと視線を落とし、乾いた息を一つ吐いた。
「アードルフと私は理解し合えない、ということよ」
部屋の空気が静かに沈められるのが分かる。フローレンスは口に手を当ててその場でしゃがみ込んだ。コンラートは、何も言えず口を引き結んで立ち尽くしている。
「私たちのせいでもあるわ。アードルフ兄に説明に行かなくちゃ!」
「ああ、そうしよう!」
フローレンスたちがすぐさまアードルフの元へ向かおうとしている。
「それはやめて。説得したとしてもきっと本心からは納得しないわ。そもそも彼は、演奏旅行に乗り気ではなかったもの」
「それでも、説明しなくちゃルイーズが悪者になっちゃう!」
「……そう思われても、もういいの。だって、彼とはすでにエレオーラさんの件で距離ができてしまっていたわ。なんとか前向きに考えたかったけれど、もう疲れてしまったの」
「そんな……」
それでも、まだなにかを言おうとするフローレンスをコンラートが止めた。
「フローレンス、ここは私たちがなにもしない方がいいようだ」
「コンラート!」
「ありがとう」
今、やるすべきは巡業である。
2日後に開催予定だという演奏会に向けて練習に没頭した。アードルフのことは考えないようにした。
…………再び朝、ドアをノックする音が聞こえた。今度はクリスティアンもマティアスもすぐに部屋から出て来た。シャツの前はきちんと留められている。
「……アードルフかしら?」
「君が来ないから苛立って迎えに来たのかもしれないな」
クリスティアンはルイーズを離れたところにやると、扉を開けた。
「あ、君は!」
どうもアードルフではなさそうだ。顔をのぞかせた。
「レウルス!」
レウルスはルイーズを見ると、微笑んだ。つられてルイーズも微笑む。
彼を部屋に招き入れると、側でクリスティアンが囁いてきた。
「ねえ、君の恋人が来た時よりも嬉しそうじゃない?」
「変なことを言わないで」
コソコソと話しているとレウルスがその様子をじぃっと見ていた。
「アードルフが来たのかと思って警戒しちゃったよ」
「どういうことだ?」
起きたことを話すと、さすがにレウルスも驚いていた。
「……アードルフが怒るのは分からなくもないが、帰るように言うなんて横暴だな」
「彼はこちらの言うことには聞く耳も持たないの。私もさすがに怒りの気持ちが湧いてしまって。……帰らないと決めたわ」
「僕は、相手を思いやれない男なんてダメだと思うよ。君のことを理解できる男こそが君を輝かせてくれるいい男なんだと思うよ」
クリスティアンの言葉に思わずジンとして下を向いた。
「……そんなことを言われたら、泣いてしまうわ」
「ルイーズ、ちょっと外に出ようか」
泣きそうなルイーズを見て、レウルスが外に連れ出した。
辺りは穏やかな日差しで青い芝がとても映えて見えた。
「ルイーズ。……決めたんだな?」
「ええ。私は、演奏旅行を続けるわ」
「……違う。それだけじゃない。アードルフのことで考えたことがあるんじゃないか?先ほど、クリスティアンの言葉で泣きそうになっていただろ」
「そうね。……彼とは、もうやっていけないと思ってるわ」
ルイーズの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。一緒に過ごしてきた時間を思うと、彼を大事に思っていたのだと感じた。
「泣くな。これからは、オレが側にいる」
レウルスに抱きしめられた。
「レウルス……」
しばらく泣いた。アードルフと過ごした時間を思うと泣けた。
「……落ち着いたか?」
「ええ」
「じゃあコテージに戻っていてくれ。少ししたらオレも戻るから」
そう言うと、レウルスはどこかへと行く。
コテージに戻ると、クリスティアンが声をかけてきた。
「やあ、落ち着いた?」
クリスティアンたちが、気遣ってホットミルクを入れてくれた。
「ありがとう。出せなかった答えが出て楽になれたわ」
「そっか。……でも、アードルフは君を待ち続けているかもしれないね」
「ええ。手紙を書くわ」
コテージの管理人の息子が隣町に行く用事があるというので、彼に手紙を預けた。
「よろしく頼むわ」
コインを渡すと、管理人の息子は愛想よく出かけて行ったのだった。
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