判明した事実
「僕が寝ている間に2人が話しているなんて!耐えられなくて起きたんだ!」
という言葉に、ルイーズは驚いていた。
(どれだけマティアスのことを大事にしているのよ。とりあえず落ち着かせなきゃ)
「クリスティアンは、マティアスをバロワンみたいに有名にしたいと考えているのよね?ならば、大事にしたい気持ちは分かるわ」
「ああそれは合っているよ。だけど、それだけじゃないんだ」
「それだけではないって?」
クリスティアンはウルウルした目でマティアスを見た。マティアスがうなずく。
「クリスティアン様のしたい通りになさってください」
なんだか分からないが、2人の中でなんらかの意思の疎通がなされたらしい。
「意を決して言うよ。実はね、僕らは..........愛し合っているんだ」
「愛し合っている………それは、言葉の通りよね?」
「そうだよ。僕は彼を愛している。そして、マティアスも僕を愛してくれている」
「........そうだったのね」
ルイーズは初めて見る男性同士の恋人たちをまじまじと見た。
「驚かないのかい?なんだか落ち着いて見える」
「.......そういうものだと受け取ったからよ。マティアスが言っていた“人はとても自由なものだ”という意味はこのことだったのね」
「はい。なかなか言いづらいことでしたので、曖昧な言い方をしました」
「マティアス、僕たちのことを説明してくれようとしていたんだね?」
クリスティアンは感動したようにマティアスを抱きしめた。
「....コホン。あの、あなた方の関係は了解したけれど、こういう状況なわけだから私に少し気を使って頂けないかしら?」
「それは心配する必要はないよ!僕たちはこうしてちょっとばかり抱きしめ合ったりはするけれど、基本的にプラトニックな関係なんだ。そういうこともあってフローレンスたちも安心して君をここに残したんだよ」
あの2人は彼らの関係を分かっていたのだ。
(だから部屋割りになにも言わなかったのね)
「男性同士の恋はね、ディートマルでもまだ偏見の目で見られることがあるんだ。だから、滅多なことでは僕たちの関係は打ち明けない」
「それなのに、私には打ち明けてくれたのはなぜ?」
「それは、僕はルイーズを人間性でも評価したからだよ。そして、それは間違っていなかった。音楽でもなんでも視野が狭いというのは良くないから、君みたいな人は貴重だ」
「視野が狭いのが良くない、というのはなんとなく分かるわ」
意外にも自分たちの関係をすんなり受け入れた様子のルイーズに、クリスティアンたちは喜んだ。
「ルイーズが僕たちを理解してくれて嬉しい。もう酔いも醒めたよ」
「......人の感情は自由なのだから、あなた方の気持ちも大事にしたら良いと思うわ。それより、もう眠ることにしましょう。疲れたわ」
「うん、寝るとしよう。お休み~」
彼らは、晴れやかに部屋に引き上げていった。ルイーズも部屋に引き上げる。
部屋に入ると息を吐いた。
「驚いた……」
スンナリ受け入れた態度ではいたが、初めて見た男性のカップルに内心は驚きでいっぱいだった。
(案外、身近にいるものなのね)
彼らに言った通り、人の感情は自由なのだからダメとか良いとかは思わない。
(........でも、これでこの演奏旅行で私だけが恋人同士ではないということが判明したわ)
そう思うと、なんだか寂しくなった。
ベッドの上に寝転がると、レウルスのことを思い浮かべた。
(彼だったらどんな反応をしたかしら?レウルスも案外アッサリ受け入れそうだけど。アードルフはなんとなく拒否反応を示しそうだわ)
荷物の中にはアードルフからもらった指輪がある。出す理由もなくて入れっぱなしだ。
(なぜ、アードルフは指輪をくれたのかしら?)
シンプルな結婚指輪でもない限りバイオリンを弾く時には外すことになるのに、彼はどうして指輪をプレゼントしてくれたのだろうか。
(もしかして、バイオリンから私を遠ざけようという気持ちがあるのかしら......)
勝手にそんなことを考えて、複雑な気持ちになったのだった。
………翌朝、目覚めるとすでに明るかった。
窓の外を見ると、遠くに羊と羊を追う人の姿が見える。
「本当にのどか……」
その時、玄関扉の方からノックする音が聞こえてきた。
(誰かしら?スタッフの人?)
ガウンを羽織ると、玄関扉の方へと向かう。クリスティアンたちはまだ起きていないのか、個室の方は静かだ。
(スタッフが遅れてやってくると言っていたわ。ここは私が出るしかないわよね......)
ルイーズは念のため火かき棒を手にすると、おそるおそる玄関扉の方へとにじり寄る。
のぞき穴を見ようとしてかがんだところで、後ろから火かき棒を取り上げられた。
「きゃっ」
ビックリして振り返ると、人差し指を口に当てたクリスティアンがいた。
「しぃ。こういう時は男が出るもんさ」
クリスティアンはルイーズを背中に隠すと玄関扉を開けた。
「......あれ君は」
クリスティアンの反応からするに知り合いらしい。相手が気になってクリスティアンの後ろから顔をのぞかせてみた。
「あ、アードルフ」
「ルイーズ!?」
アードルフの表情が急に険しくなった。
「これはどういうことだっ!?」
なんだかアードルフは怒っていた。
「どうって? 今は朝だ。“おはよう”かな?」
「ふざけるな!なんだ、その恰好は!」
よく見たらクリスティアンは、下はズボンを履いているが上半身裸にシャツを羽織っているだけだった。ちなみに前は全開。肌色が眩しい。
(ど、どうしてそんな恰好をしているの!?)
急いで横を向いた。
「ああ~、僕は上半身は裸で寝るタイプだから。昨日の晩は結構飲んだから暑くてたまらなかったし。ね?」
クリスティアンはなぜか、ルイーズに同意を求めてきた。
「え?......ええ。クリスティアンはかなり飲んでいたわね。だから暑かったのかもしれないわ」
フォローにならないフォローを言う。
「.......昨晩は酒を飲んで暑くなった?それで半裸だと?」
アードルフの眼光が鋭くなったのだった。
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