カルチャーショック
なんだかクリスティアンがさっきからマティアスに引っ付いていた。
「クリスティアン、酔ったのならば早く休んだ方がいいわ。マティアスが可哀そう」
(マティアスは一応笑っているけれど、あんなに引っ付かれたら困るものね)
マティアスは平民だから伯爵令息で主催者である彼には逆らえないだろうと思って助け船を出した。
「そんなことはないよ~。なあ、マティア~ス?」
クリスティアンはさらにマティアスにぴったりと寄り添った。さすがにマティアスも腕を伸ばして、それをかわそうとしている。
(ほら、マティアスだって嫌がっている)
「ちょっと、クリスティアン様!ルイーズさんの前ですよ」
マティアスが焦っていた。
「..........クリスティアンって酒癖がとても悪いのね。お水を飲んで」
水の入ったグラスをクリスティアンに渡す。だが、彼は酔っぱらっていてグラスを受け取る気配がない。マティアスが見かねて替わりにグラスを受け取ると、クリスティアンの口元にグラスを持っていった。
「お水ですよ。これを飲みませんと」
マティアスがクリスティアンの背中に手を回してグラスの水を飲ませていた。
「ぷはあ。マティアス~!ありがとう~!」
クリスティアンはケラケラ笑っていた。
「陥没事故があってクリスティアンも処理が大変だったのでしょうけれど、これではマティアスも大変ね」
「いつものことです。リラックスされると、ついお酒に飲まれてしまう方なので」
「そうだ!リラックスしているんだ、僕は!」
急にクリスティアンが腕を上げて言った。
「驚いたわ。もう」
やれやれと笑っていると、またクリスティアンはマティアスに引っ付き出した。
本格的にクリスティアンに厳しく言わないといけないかと思っていると、マティアスが口を開いた。
「クリスティアン様、これだと僕は冷たくしなくてはいけなくなりますよ」
「そんなことを言うなよ~。僕と君の仲だろう~?」
「いけません。節度ある行動が世間では大切なんですよ。お分かりでしょうが」
マティアスがなだめるようにクリスティアンに言う。
「僕だってさあ。世間のことは気にしているよお。だけどさ、今夜は気心知れた人しかいないじゃないか」
「そんなことはありません。ルイーズさんは真っ当な方なんですから」
「真っ当??そりゃそーだ~」
「だから、離れましょう」
「いやだよ~」
クリスティアンがダダをこねていた。
「あなた方、いつもこんなやりとりをしているの?」
「……まあ、そうですね」
「マティア~ス!僕のマティア~ス!」
クリスティアンが歌いだした。
ルイーズが肩をすくめる。
「僕のマティア~ス、どうか僕にキスしておくれ~」
ギョッとする。
なにを言い出すのだ、とルイーズは目を見開いた。
「ダメです。絶対に。早く寝て下さい。あちらに行きましょう」
「なんでだよ~」
マティアスはクリスティアンを抱えると個室の方へと連れて行く。まだクリスティアンは大きな声でマティアスに甘える言葉を叫んでいた。
「………カルチャーショックというものだわ」
ルイーズは男性同士があれほどくっついたり、冗談でもキスをしてくれと頼んだりしているのも見たことがない。
(メッツォではこんなの見たことがないわ。異国ではこれが普通なのかしら?)
考えていると、マティアスが個室から出て来た。
「お騒がせしてすみませんでした。やっとお眠りになりましたので、もう大丈夫かと」
「あなたはとても彼に気に入られているのね」
「そうですね。最初は驚きましたが、人はとても自由なものだとクリスティアン様を通じて知りました」
「………受け止められるあなたが素晴らしいのだと思うけれど。メッツォではあまり見たことがない光景だわ」
「はは。僕はもっと自由である方がいいと思うようになりました」
「柔軟ね」
マティアスはギターを持ってくると、静かに曲を弾き始めた。
せつない悲し気な旋律だった。
「あなたのギターはとてもいいわ。本当に」
「ありがとうございます。この曲は切ない愛を語っていて.......」
「マ~ティ~ア~ス!!」
クリスティアンが早くも目覚めたらしい。
「クリスティアン様!落ち着きましょう!」
マティアスがまたクリスティアンをなだめ始めた。
「僕が寝ている間に2人が話しているなんて!耐えられなくて起きてしまった!」
「え?」
まるで嫉妬するようなことを言うクリスティアンに驚いたルイーズであった。
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