その後の状況は

レウルスは出て行く前に、チェロの入ったケースをチラリと見た。ルイーズがうなずくと、彼はニコリとしていた。


(チェロを頼むということね)


ルイーズは彼らを見送ると、すぐさまチェロを持って事務室へと急いだ。


「アードルフに急ぎの伝言をお願いしたいの!すぐに連絡を取って下さい」


いつもならこんな事務室の使い方をしないが、今は緊急だ。ここでこそメッツォとトリアの親睦を図る人物としての特権を使わなくてどうする、という気持ちであった。


アードルフはエレオーラの実家であるライムント伯爵家に行っているはずだから、そこへ伝言を持って向かうようにお願いした。


メモには、エレオーラが音楽院に現れて興奮している。レウルスがたまたま見かけて音楽院の外へと連れ出してくれたから、早急にエレオーラを迎えに来て欲しい。連れ出した先は分からないが、そう遠くはないカフェだろうと書いた。


(ひとまず、これで大体は伝わるはず)


こちらでもレウルスとエレオーラのいる場所を急いで見付ける必要がある。レウルスは自分の替わりに彼女を引き受けたのだ。


チェロを事務室で預かってもらえるように頼むと、デニスのいる馬車寄せへと急いで向かった。


「デニス!デニス!」

「どうしたんです?」


デニスは御者と休憩していたのか、柱の影からひょっこり顔をのぞかせた。


「大変なの!」


事情を説明すると、デニスはすぐさま走って行こうした。


「デニス、馬車で行って!彼女を見つけたらそのままライトムント伯爵家に連れて行けるわ」

「分かりました!」


慌ただしくデニスが馬車で街に向かうと、ルイーズは練習室へと向かった。とりあえずは、迎えの馬車が来るまで音楽院で練習をするつもりだ。


落ちつかない気持ちで2時間ほど練習をしていると、ジーナが迎えにやって来た。馬車の乗り込むと、すぐに状況について尋ねる。


「あれからどうなったの?」

「私もよく分かりません。デニスが戻って来て、お嬢様を迎えに行くようにと言われただけで。替えの馬車で急いで来たのですが、お時間がかかってしまい申し訳ございませんでした」

「いいのよ。練習できたし……」


レウルスが心配だった。デニスは彼を見つけられただろうか。落ち着かない時間を過ごした。


………夜になってデニスがレウルスを連れて戻って来た。


「レウルス!」


あまりの心配で、彼の姿を見ると叫んでしまった。デニスもジーナもいなかったら抱きついていた。


「心配ない。オレは大丈夫だよ」

「状況を聞かせて。ジーナは暖かい飲み物と食べる物を用意して」

「はい!」


居間に案内すると、すぐにお茶の用意がされる。レウルスは紅茶を飲むと息を吐いた。


「あの後、エレオーラ嬢を連れて音楽院に一番近いカフェに連れて行った。デニスもすぐに気付いて少し離れたところから待機してくれていたよ。店に入った後は、彼女はいかにアードルフについて詳しいかをずっと話していた。そして、後悔していると」

「後悔?」

「素晴らしい存在を無視して間違った選択をしたと」

「なんて勝手な........。子どももいるというのに」

「彼女は現状に耐え切れずにおかしくなっているな。正常に物事を判断できていない。話が支離滅裂だった」

「………アードルフは?彼に向かうように伝言させたのだけど」

「割りとすぐに来たよ」


レウルスはもう一口紅茶を飲んだ。


「彼は、どうしたの?」

「エレオーラ嬢はアードルフを見た瞬間に抱きついていたよ。アードルフは彼女の涙を見て、つらそうな顔をしていた。そして、すぐ後に彼女の両親もやって来たんだ。彼女が取り乱すからアードルフがなだめながら共に去って行ったよ」

「そう……。大変だったわね。レウルスを巻き込んでしまってごめんなさい」

「いや、ルイーズから一刻も早く彼女を引き離したかったから……。音楽院でエレオーラ嬢の姿を見て驚いたよ。なにもなくて良かった」


レウルスがルイーズの手に触れる。


「あなたこそ、なにも無くてよかった」


ルイーズは彼の手を取ると、自分の頬に当てる。


「この手になにかされたらと思うと、気が気じゃなかったわ」

「.........手だけか?」

「いいえ、全部。全部よ」


しばし、2人で見つめ合った。


コホン、と咳払いの音がして振り向くと、ジーナが扉のところに立っていた。


「タイミングを間違えましたね。......レウルス様、お食事の用意ができました。あちらの部屋へどうぞ」

「どうも。ありがたく頂くよ」


ルイーズも食事がまだであったので、共に食事をとった。アードルフのことはそれ以上話さなかった。かわりに夏の演奏旅行のことを話した。


「レウルス、今日はもう遅いから泊まっていったら?部屋ならたくさんあるし」


少しお酒を飲んだのもあって言ってみた。


「........それはやめておく。今の状況ではいろいろと問題視されそうだ」

「それもそうね。デニスに送るように頼むわ」

「ああ。ありがとう」


レウルスを寮まで送り届けるようにデニスに言うと、彼は親指をグッと突き出して去って行った。


「あれはどういうこと??」


首を傾げているとジーナに尋ねられた。


「お嬢様、もしかしてレウルス様のことをお好きなんですか?」

「え.........。なぜ、そんなことを聞くの?」


「だって、先ほどいい雰囲気だったではないですか。お互いを思いやってらっしゃって」

「聞いていたの?」

「聞こえたんです。扉は開いておりますから」

「彼に対しては尊敬心が..........。もうお風呂に入るわ」


なんとも言えない状況なだけに答えに困ったルイーズであった。

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