エレオーラの嫉妬
険しい顔をしたデニスが口を開いた。
「子どもが叩かれるのを止めて引っ掻かれたのではありません。事実は、家を去ろうとするアードルフ様を引き止めようとして引っ掻かれたのです」
「止めようとして? 彼の説明とは違うわね.....」
「お子さんは叩かれていないの?」
「彼女がお子さんを叩くことはあるようですが、今回のケガとは関わりがありません」
「..........そう。とすると、完全なウソでもないわけね」
子どもは叩かれている、その母の彼女はアードルフに惹かれている、アードルフはひとまず彼女から子どもを避難させることを考えたようだが、釈然としなかった。
子どもに当たっているとしたらそれは問題だ。子どもは速やかに保護するべきだろう。彼女の実家できちんと保護してもらえればいいのだが。
「お嬢様、話を聞く限りエレオーラという女性はアードルフ様に気があるとしか思えませんね」
「そうでしょうね。でなければ、キスなんてしないと思うわ。普通は」
「お嬢様、アードルフ様をお許しになるのですか?」
ジーナが心配な顔をしている。
「ジーナさん、これはお嬢様が決めることですよ」
「私はお嬢様が不幸せな思いをして欲しくないんです」
「それでも、ですよ。オレだってお嬢様の幸せを願ってます」
目の前にいる2人は純粋に自分を心配してくれていた。
「2人共、心配してくれてありがとう。........エレオーラさんの一方的な感情なのか、それともアードルフにもそういった気持ちがあるのか、きちんと見極めたいと思うわ」
アードルフを見ていると、エレオーラへの感情は“好き”というよりも、友人を助けたい、という気持ちに近いような気がしている。
でも、エレオーラがアードルフを男性として意識しているのだと思うと、やっぱり複雑な気持ちになる。
.........ルイーズはバイオリンを持つと、音楽院に向かった。余計なことを考えずに猛烈に練習したい気分であった。
音楽院に着いて馬車を降りて回廊を歩く。
こころなしか、人が少ない気がした。夏休み前は演奏旅行や短期留学に行く者も多いから皆、準備で忙しいのかもしれない。
物音がした。
「.......そこのあなた、少しお話をいたしませんか?」
突然、柱の影から人が出て来たと思ったら、あのエレオーラだった。店で働く姿とは違ってドレスを着ている。
「突然、話しかけてごめんなさいね。だけど、どうしてもあなたとお話がしたくて」
どうやって音楽院に入って来たのかは分からないが、彼女が目の前にいた。
「.....私を知っているのですか?」
「名前だけは。先ほど、あちらにいた女性に“ルイーズさんはどちら?”と聞いたらすぐに教えてくれたわ」
「そ、そうなのですね」
エレオーラが自分に会うために訪ねて来たのだと分かると動揺した。
「.......とりあえず、あちらのベンチに座りましょうか」
近くにあったベンチに座るように勧める。予想しない事態に緊張感が走った。
「.....私を訪ねてらっしゃったのはなぜでしょうか?」
「あなたのことをアードルフから聞いていて、どんな方なのか知りたくなって。あなたは彼の恋人なんでしょう?」
「ええ、まあ」
アードルフは、きちんと恋人の存在を話していたようだ。
「あ、私はエレオーラと申しますの。アードルフのかつての婚約者なんです」
「はい。聞いています」
「あら、私のことを聞いていたのね?では、話が早いわ。私が今、彼と親しくしていることもご存じ?」
「親しく、ですか?」
エレオーラは笑顔だ。
「私、いろいろありましたけれど、大切だったものを再確認しているところなの。アードルフは大切な存在でしたわ。私は忘れていたの。それなのに私ったら.......」
彼女は一人で話しだした。こちらの反応を見ながら話しているようには見えない。
よく見たら彼女のドレスは裾が破れていた。髪の毛もところどころ乱れている。メイクも剥げていた。
(彼女は確かに
「.....それで、あなたはどのくらい彼を好き?あなたの人生に彼は必要かしら?」
「どうしてそんなことを聞くのです?」
「さっき、アードルフが私にとって大切な存在だと話したではないですか。だから、あなたが必要で無ければ彼は私といるべきだと思って」
笑顔だがおかしなことを言う彼女に恐怖を感じた。
「......エレオーラさん、私が彼を必要無いと言ったとしても、アードルフは違うかもしれません。私だだけに聞いて決められることじゃないと思いますわ」
「そんなことはないわ!だって、私が彼を愛しているのだもの!」
突然、エレオーラは立ち上がると大声で言う。息が荒かった。
冷静に返そうと思って言った言葉だったが、彼女の神経に障ったようだ。
彼女は答えにならないような言葉を吐くと、今にもこちらに掴みかかってきそうな勢いでこちらを睨んでいた。
(どうしよう......まずいわ)
「エレオーラさん、落ち着いて下さい!私の屋敷でゆっくりと話しませんか?」
「あなたが認めればいいだけじゃないの!!」
言葉と共に彼女の手が伸びてきた。思わず目を閉じる。
「どうされたのですか?」
レウルスの声がして目を開けると、彼が彼女の腕を掴んでいた。
「失礼、姿勢を崩されたようなので、こうしてお支えしましたが」
そう言うと、手を離してルイーズを後ろに隠した。
「あら、あなたは?まさか、ルイーズさんのもう一人の恋人?アードルフに失礼だわ!」
エレオーラは違う方に怒りだした。すぐにレウルスも彼女がおかしいと感じたようだ。
「オレは恋人ではありませんよ。こんな所で話すよりもカフェで茶を飲みながら話しませんか?あなたとオレだけで」
「2人で?」
「ダメですか?」
レウルスは紳士的に微笑んで見せた。
「........まあ、少しぐらい話すならばアードルフも怒らないでしょう。いいわ」
レウルスの差し出した手にエレオーラが手を置く。彼はそのまま彼女を外へと連れ出したのだった。
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