◆第10章 前途は青雲?
夏休み前に起きたこと
夏休みが1週間後に迫った。
このところ、初めての演奏旅行に向けて準備に忙しい。
フローレンスと新たに演奏旅行用にドレスを買いに行ったり、旅行に必要なものをそろえていたりしたら時間が過ぎてしまった。
.........あの日の飲み会で、アードルフと兄はすっかり仲良くなった。
すっかり兄的には身内感覚らしい。
あの晩、そっとレウルスに言われた。
『ルイーズの兄上はアードルフしか見ていないのだな。悔しいよ』
『それは仕方ないわ。.........恋人は彼なのだから』
レウルスはなにか言いたげに口を開いたが、口を閉じた。
『アイツ、エレオーラ嬢のことは説明したのか?』
『いいえ。試験が終わって間もないから、これからではないかしら』
『そうか』
その後は、何事もなかったように皆と飲んだ。レウルスはいつもより酒を多く飲んでいるようだった。
酔った兄と共に屋敷に戻ると、兄の恋人だというモニカが出迎えてくれた。
『初めまして、オフェリア伯爵家のモニカと申します』
『ルイーズですわ。兄がお世話になっております』
『いえ、こちらこそです。その……本日は参加せずすみませんでした』
『気になさらないで下さい。お疲れのところ兄を突き合わせてしまい、こちらこそすみません』
2人して頭を下げ合う。モニカはとても礼儀正しい人らしかった。
兄をデニスに任せると、せっかくだからと、モニカとお茶をすることにした。
彼女は、言葉を選びながらゆっくり話す人で、兄との出会いからメッツォで流行っていることまで、いろいろと話をしてくれた。ヘンリーやリリアンのことには一切触れない。
(気遣いもできる方ね。この方ならば、お兄様も幸せになれるでしょう)
兄が良い人に巡り合えてホッとした。
次の日、起きてきた兄に“良い方ね”と言うと、二日酔いの頭を抱えながらとても喜んでいた。
『お前も、アードルフ君と仲良くな』
『ええ......』
兄とモニカはしばらくトリアの地方都市を回るらしい。
『ちょうど私も巡業でいなくなってしまうから丁度いいのかしら』
『戻って来た時に食事を改めてしよう』
『ええ』
兄とモニカは翌日、旅立って行ったのだった。
「お嬢様、本日はアードルフ様とのデートでしたわね?」
「ええ」
アードルフに話がある、と言われていた。
(ついにエレオーラのことを話すつもりなのね。なんと説明するつもりなのかしら)
アードルフはデート前に用事を済ませて来るとのことで、カフェで直接、待ち合わせすることになっている。
なんとなく平和的に話し合えるように、ホワイトベースのワンピースを選んだ。
.........時間に間に合うように用意をしてカフェに着くと、まだ、アードルフはやって来ていなかった。
メニューを見て時間をつぶす。
アードルフは待ち合わせをしても遅れることはない。だけど、いつの間にか約束の時間から30分が経っていた。
(なにかあったのかしら)
なんの知らせもないままさらに30分が経った。さすがにじっと待っているのもつらくなってくる。席を立つと店を出た。すぐにデニスが寄って来る。
「まだ来ませんね。お帰りになりますか?」
「ええ。なにが起きているか見て来てもらえる?」
「承知しました」
そのままデニスは走ってどこかへと行く。彼は情報屋とのつながりもあるから、その辺りは任せてた。
馬車に乗ると、屋敷へと戻った。
........自分の部屋でお茶を飲んでいると、ジーナがアードルフの訪問を告げてきた。
「アードルフが?」
「なんだか、ひどく慌てていらっしゃる様子です」
「居間へ通してちょうだい」
ホワイトのワンピースは屋敷に戻るなり、すぐに脱いでしまった。再び、そのワンピースを着る気にならなくてネイビーのワンピースを選んで着ると居間に向かった。
「ルイーズ!本当にごめん!」
ルイーズを見るなり、アードルフは謝ってきた。
彼の顔には引っ掛かれたような傷があった。
「その顔は………?そして、その横にいるお子さんは?」
なんと彼は、子どもを連れていた。まだ、3歳ぐらいであろうか。可愛らしい女の子だ。
「事情を話したい」
「……長くなりそうね。そのお子さんはメイドに見てもらいましょう」
子育て経験のあるメイドを呼ぶと、メイドは慣れた様子でお菓子で気を引きながら子どもを連れて部屋の外へと出た。
2人きりになると、アードルフはガバリと頭を下げた。
「......今日は本当にごめん!そして、最初に伝えておくけれど、あの子は僕の子じゃないから」
「そんなこと、一言も言っていないわ」
「そう、だよね........。ああ、どこから話せばいいだろう」
アードルフはエレオーラのことをポツリポツリと話し出した。
ディーターの兄が働く店で元婚約者を見て、働く理由を知りたくなったそうだ。だから、しばらく彼女の様子を見守りながら金を渡していたという。
キスされたことは言わなかった。敢えて言うつもりはないのだろう。
「……それで、その顔の傷はどうしてできたの?」
「彼女は精神を病んでいる。自分の子に手を上げようとしたから止めた時に……」
興奮した彼女を止めようとして、引っ掻かれれたのだと彼は説明したのだった。
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