アードルフとレウルスの衝突
「どうしてカルテットにこだわる?僕にはバイオリンの実力がある」
アードルフが強い調子で言う。
「うん、らしいね。フローレンスからコンクールでの入賞経験もある聞いているよ。でもさあ、ギターにマティアス、バイオリンにルイーズ、ビオラにコンラート、チェロにフローレンスっていうバランスがやっぱり最高なんだよ。だから、編成を変えるのはちょっとムリ」
マイペースにクリスティアンが答える。
「ガンコなヤツだな...」
「ちょっと、アードルフ兄!言い方に気を付けてよ。アードルフ兄の先輩でもあるんだよ!」
「この音楽院から卒業する生徒なんてたくさんいる。自由な発想をできないのが大変、残念だね」
「アードルフ、冷静になれ」
普段はあまり口を挟んでこないコンラートも口を出した。
「子どものワガママみたいで幼稚だな」
「なんだと!?」
レウルスの言葉に反応したアードルフが立ち上がった。はずみで椅子がガタンと倒れる。
「ちょっとアードルフ、落ち着いて!」
(こんな感情的なアードルフは初めて。どうしてここまで怒るの?)
ルイーズは戸惑いながらも、倒れた椅子を元に戻した。
「そもそもフローレンスたちも勝手だ!僕がいない間に話を進めるなんて。ルイーズは僕の恋人だ。大切にしているのは分かっているだろう!?」
「私たちに八つ当たりしないでよ!アードルフ兄がルイーズのことを放っておくからいけないんじゃん!私はチャンスをルイーズに分けただけだもん!」
いつもはアードルフの味方であるフローレンスもさすがに頭にきたらしい。
「コンラートはフローレンスのすることに、なにも言わなかったのか!?」
「私に当たるな。お前、熱くなりすぎだよ。どうしてそんなに怒る?ルイーズが成長できる機会なのだぞ?」
コンラートが冷静に言う。アードルフは息を大きく吸った。
「はあ、確かにそうだろう。だが、それでも相談もなく勝手に決めたことが気に入らないんだ。相談して欲しかった」
「それは......申し訳なく思うわ。でも、あなたは忙しそうだったし、この話自体も急だったわ」
ルイーズの言葉にクリスティアンも口を開く。
「ルイーズはね、僕が思うメンバーにピッタリだと思ったよ。だから、すぐに返事をして欲しいと迫った。だって、いい人材がいたら確保するのは当たり前だ。そういうのはタイミングなのさ。運命とも言うね」
「それを勝手だって言うんだ!」
またアードルフが熱くなる。
「オレから見たら、アードルフこそ自分の都合に合わせて考えているようにしか思えないな。ルイーズの気持ちを少しでも考えているのか?」
「お前に言われたくない!」
「なら、もっときちんと向き合うべきだったな。自分の思いばかり押し付けやがって」
「お前!フルンゼで一緒だったからって、口を出し過ぎなんだよ!目障りなヤツだ!」
「お前がそうさせているんだ」
「この野郎!!」
ついにキレたアードルフがレウルスの胸倉を掴む。
「やめて!やめてってたら!」
耐えられなくなってルイーズが叫んだ。
(アードルフはこんなに勝手な人じゃなかったはずなのに.......!)
さすがのフローレンスもオロオロしていた。
「君たち!!落ち着いて深呼吸したまえ!」
コンラートが間に入って止めた。
「多くの者がお前たちを見ている。お前たちが争ってなにになる?」
「..........」
アードルフとレウルスがやっと黙った。こちらに注がれている多くの視線にようやく気付いたらしい。
「......アードルフ、私を夏の演奏旅行に行かせてちょうだい。私にとってチャンスだもの。演奏旅行に行ったからといって、二度と会えなくなるわけではないわ。お願い」
本当は、アードルフに“許して”などと言ってお願いしたくなかった。普通に話して理解してもらうつもりだった。だが、彼は思った以上に怒っていた。
「僕は……ルイーズが側にいないと心配なんだよ」
アードルフがルイーズを抱きしめて肩に顔を埋める。
(心配させているのは、あなただというのに……)
「不安になる必要なんてないから......」
彼の背中を優しく撫でた。とにかく今は、アードルフを落ち着かせることが先決だ。
「.......演奏旅行に出掛けても僕を忘れない?」
「忘れるわけないわ」
「........なら君の願いを叶えないわけにいかないね」
アードルフにギュッと抱きしめられた。ルイーズはされるがままになる。
「.......えーっと、じゃあ演奏旅行はOKということでいいよね?」
クリスティアンが確かめるように言う。
「.........ああ。演奏旅行は僕も都合をつけてルイーズに会いに行くようにする」
「OK。それは全然、構わないよ。.........ああ、丸く収まって良かった~!」
クリスティアンがのん気な言い方をする。彼はなかなか強心臓だ。
「オレも演奏旅行の合間にルイーズたちの様子を見に行く」
レウルスの言葉にアードルフがまた反応した。
「なんでお前まで行こうとする!?」
「気になるからだろ」
「お前..........もしかして」
アードルフはルイーズをきつく抱きしめながら睨みつけていた。
(アードルフがこんな不安定になるのは、エレオーラのせいなの?)
「......ルイーズ、試験が終わったら話したいことがある」
アードルフが耳元で囁いた。
「分かったわ」
(レウルスの説教が効いたのかしら.......?)
レウルスの言葉は自身にも当てはまるはずであったが、アードルフにとって効果的であったらしい。
(ひとまず、落ち着いて良かったわ)
ホッとしたのも束の間、試験シーズンが近づいていたのだった。
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