演奏旅行のお誘い
少し赤い顔をしたクリスティアンは、背筋を伸ばしてルイーズを真っすぐ見た。
「この夏はディートマル国で演奏旅行をしてみないかい?僕はこちらのマティアスとフローレンス、コンラート、そして君を加えた弦楽四重奏の国内音楽巡業を考えているんだ」
(ディートマル国で巡業を?この私を加えて?)
急な演奏旅行のお誘いにルイーズは驚いた。昨日、イザベラ夫人に断られたばかりである。当分、自分が演奏旅行に行く機会など当分訪れないのではないかと思っていた。
「私を加えたカルテット巡業だというのですか?」
「そうだよ。どうだろう?ぜひこの手を取って行くと言って欲しい」
クリスティアンが手を差し伸べる。
「フローレンスとコンラートはもう承知しているのですか?」
フローレンスたちの方を見ながら聞くと、彼らはウンウンとうなずいていた。
「面白そうじゃない。クリスティアンは私の古くからの知り合いなんだし、なんかやるっていうのなら協力するよって話していたの。彼、音楽オタクだけどとってもいい人だよ」
「音楽オタクは悪くないだろう?」
「自覚しているんだ?」
「まあね」
アハハとフローレンスたちが笑っている。
「そろそろ手を握ってもらえないだろうか?僕の手がしびれてきたよ」
手を差し出したまま、困ったような顔で言うクリスティアンの勢いに押されたルイーズは、あまり考える間もなく彼の手を握った。
「良かった!見目麗しい女性2人がいて演奏も素晴らしいとなれば、こちらも心強い。では、さっそく我々の夏の演奏旅行について話を進めていこうではないか。ハッハッハ!」
勢いづいたクリスティアンは、立ち上がるとまるで演技をするかのように両手を広げた。
(クリスティアンて、ちょっと芝居がかった大げさなところがある人ね。イケメンだけど)
なんだか、ちょっぴり残念だと思った。
「クリスティアン、座ってよ。演技でも始めるのかと思ったじゃない」
フローレンスも同じように思ったようだ。コンラートはただおかしそうに笑っている。マティアスは慣れているようでなにも言わず微笑んでいた。
.........その後、クリスティアンの住むディートマル国についてどんな国なのか、どんな音楽が好まれるのかなどについていろいろと話を聞いた。フローレンスたちとのつながりについても語られる。
「フローレンスは、ディートマル国に暮らしていたことがあったのね」
「夏の間だけね。あちらは山間にある国だから、トリアよりも涼しくて過ごしやすいの。幼い頃は身体が弱かったのもあって過ごしやすいディートマルで過ごしたのよ」
「そうだったのね。音楽のつながりがあってクリスティアンとも知り合ったということね?」
「クリスティアンの別荘が近くにあって、その関係で知り合ったの。夏の間、ダラダラ過ごすだけではダメだと言われて、楽器に触れることになって。近所に住んでいたクリスティアンも、もれなく一緒に音楽合奏をやらされることになったのよ」
フローレンスが懐かしそうに言う。
「そうそう、僕は母がピアノを弾く人だったからピアノをね。フローレンスはその頃、初めてチェロに触ったはずなんだけど、メキメキ上達したなあ」
彼らの思い出話に花が咲く。
「コンラートは?いつクリスティアンと知り合ったの?」
「私はフローレンスに連れられて別荘に行った時に。彼はその頃から面白かったよ」
「面白いって言われると、なんだか気持ちが良くないなあ。カッコイイとか言ってよ」
「美男子で音楽オタクで面白かったよ」
「褒めてるようで、けなされているカンジだなあ」
アハハ、と盛り上がる。自分の知らない彼らの幼い時の話がなかなか面白かった。
「では、改めて宜しくね。まだまだ未熟者だけど、演奏旅行でぜひ、成長したいわ」
「宜しく!音楽院の方にも僕から話を通しておくね。明日は音楽院の恩師に挨拶しに行くつもりだから」
クリスティアンが音楽院に来るなら、レウルスにも紹介したいなと、ふと思う。
(あら、レウルスに紹介って私........)
本来ならば、恋人であるアードルフに先に紹介すべきだろうに、自然とレウルスに1番に報告しなくてはと考えていることに気付いた。
(まあ、レウルスは昨日、私のためにイザベラ夫人に直談判したぐらいだから、先に報告したいと考えてもおかしくはないわよね)
恋人であるはずのアードルフとは、あのキス事件のせいでまともに話せていない。演奏旅行も勝手に決めてしまったが、彼はどう思うだろうか。笑って送り出してくれるだろうか。
少し、不安になりつつも優しいアードルフならば、きっと許してくれそうな気がしていたのだった。
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