イケメンの音楽オタク

放課後になると、フローレンスにすぐに『アルチョモヴナ』という店に連れて行かれることになった。


「先方の方はそのお店のことを知っているの?」

「うん。来る前に連絡させておいたから大丈夫」


音楽院の事務室では生徒からのメッセージを伝達するサービスがある。急用とかそういった目的で使うのが一般的だが、ルイーズやフローレンスなどの王室関係者は、プライベートな使い方をしても許されるらしい。


馬車寄せに行くと、コンラートもいた。


「コンラートはいるじゃない。なぜ、レウルスだけ連れて行くのはダメだったの?」

「え?そんなのレウルスはあちらの知り合いじゃないからだよ」

「コンラートは知っている人なのね?」

「そういうこと!」


ニッコリとフローレンスが笑う。


「まだ、会う人について教えてくれないの?」

「ルイーズってせっかち。ヒントは今日の授業よ」


本日の授業で変わったことと言えば、あの感動したディートマル国のクラシックギター演奏だが。


「ディートマル国に関係があるの?それともクラシックギターが関係ある?」

「もう!もう少しで着くから大人しくしておきなさいって」


ルイーズは父と兄同様にせっかちであった。


「分かったわよ」


馬車の窓から見えるトリアの街は、だんだんとルイーズにも馴染みのある風景となっている。


「トリアに来てまだ1年と少しだけど、だいぶこの街にも馴染んだと感じるわ」

「そう?それは良かった。ほかの国も見てみたらもっと楽しいかもよ?」

「そうね。演奏旅行に行ってみたいわ。レウルスみたいに」

「そう思うのって、アードルフ兄のことが関係しているよね?」


真面目な顔をしたフローレンスに聞かれた。コンラートも同じ顔をしている。


「いえ……と言いたいところだけど、ちょっとは関係あるかも」


本当はちょっとどころか、彼のことがあるから新しい世界を見たくなっている。


「だったら、今日は前向きな話ができるかもしれないよ」


フローレンスはそう言うと、コンラートと全く関係ない話を始めた。どこかに遊びに行く話をしていて、ちょっとうるさいくらいである。


…………『アルチョモヴナ』という店の前にやってくると、馬車を降りた。


コンラートがスマートに、馬車の乗り降りやドアを開く際に気を使ってくれる。彼は、”物静かで優雅な貴公子“として知られていた。


店員に案内されて個室に案内されると、すでに人がいてフローレンスたち待っていた。


こちらを見ると、先方が立ち上がった。向こうは男性2人で、1人はかなりの背の高さで彫刻のような整った顔をしている。


「フローレンス~!おお、コンラートも!」

「久しぶりだね!元気そうだ」


彼らは親し気にハグをしている。ハンサムな彼は、だいぶ気さくな人物らしかった。


「彼女が特別賞を受賞したルイーズ嬢?」

「初めまして。ルイーズと申します」

「初めまして。僕はクリスティアンと言って、ディートマル国のミーケル伯爵家の者だよ。君はメッツォ国のコルネ公爵令嬢なんだよね?」


相手の人物はルイーズについての情報を知っているようだ。クリスティアンの隣には本日、授業でクラシックギターを披露した男性もいた。確か名前はマティアスである。


「そちらはマティアスさんですわね?」

「そう。ウイナ音楽院で1日講師をしたから、見かけたかな?」

「授業で彼の演奏を聴きましたわ」

「そうなのか。マティアス、改めて挨拶してくれる?」

「はい。改めまして、私はマティアスです。平民出身なので姓はありません。クラシックギターで評価されこうして呼んで頂いております」


マティアスは礼儀正しく挨拶した。


「あの演奏はとても素晴らしくて涙が出そうになりましたわ」

「そんな……」


彼はまだ若いのに、心を打つような演奏ができてスゴイと思う。


「では、まずは出会いの乾杯でもしよう!」


クリスティアンは酒が好きなようで乾杯をすることになった。すぐにシャンパンが用意される。


ディートマルの人間は酒が強いらしく、次々と北方の名産だという度数の強い酒を飲んでいた。


「……それで、あのバロワンのソフトペダルの使い方が絶妙でね!シーンごとの演奏リズムもたまらない!16音符のあの部分もただ弾けばいいって感じじゃなくて、緩急がキレキレッで!!」


酒を飲んで上機嫌になったクリスティアンは、ディートマル国を代表する有名ピアノ演奏家であるバロワンについて熱弁していた。彼はこちらがビックリするくらい、音楽オタクである。


「いつもの熱弁で変わらないね」


フローレンスが苦笑いをしている。コンラートもだ。


「クリスティアン様はピアノを弾かれるのですね?お詳しいもの」

「ああ、ウイナ音楽院の卒業生だよ。ピアノ科だったけど、バロワンには敵わないなあ」

「バロワンの名は私も知っています。素晴らしい演奏ですわね」

「そうなんだよ。あ、気軽に話して。僕もその方が話しやすいから」

「では、そうするわ」


気軽な話し方に変えてだいぶ打ち解けたところで、クリスティアンは真面目な顔つきになった。


「我が国の誇るバロワンについて語りまくってしまったが、本題に入ろう」


彼は酒で赤くなった顔をルイーズに向けたのだった。

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