協力したいフローレンス
イザベラ夫人に演奏旅行に参加することは断られた。
(あまり期待はしていなかったけど、演奏を褒められたのは悪いことではないわ)
レウルスの気持ちはありがたかった。自分を心配して行動してくれたことである。唐突だったが。
(余計なことに振り回される時間があるなら音楽に触れて欲しいだなんて、レウルスらしい)
コンスタンツェ伯爵邸から屋敷まで送ってもらうと、そこでレウルスとは別れた。彼は、まだ申し訳なさそうな顔をしていた。
「レウルス、そんな顔をしないで」
「オレにもっと実力があれば、力になれたかもしれないのに......」
「私が頑張ればいいことよ。気にしないで」
「すまない」
レウルスは、何度目かの謝罪の言葉を口にした。
彼は、ずいぶんと自分を
(私も自分でどうにかしなくては)
とは言え、音楽院の課題や新しいコンクールに応募するとなると、そちらで手一杯で新しい世界を知るところではなかった。
(新しい世界に旅立ちたいところだけど、なかなか難しそうだわ)
その日はひたすら、復習や予習をして過ごしたのだった。
………翌日、音楽院に行くと、フローレンスが待ち構えていたように話しかけてきた。
「ルイーズ、今日の放課後は私に付き合ってもらえない?」
「今日?」
「うん。紹介したい人がいるんだぁ」
紹介したい人と言われて、なんだか怖い気持ちになる。もしかしてエレオーラという女性だろうか。
「あ、心配しないで、あの子じゃないから」
気持ちが伝わったのかフローレンスが言う。ホッとした。
「誰に会わせようとしているの?」
「ヒミツ。後でね」
フローレンスはそのまま教室へとスキップしながら去って行く。
「どうしたのかしらフローレンスは……」
「どうかしたか?」
レウルスだった。今、登校して来たようだ。
「フローレンスが廊下をスキップするほどルンルンなの。私に誰かを紹介してくれるのですって」
「紹介?誰を?なんで?」
「それが詳しくは教えてくれないの。ランチの時間にもう一度、聞いてみるわ」
「ああ……」
なんだかレウルスがとっても気にしている。
(フローレンス、まさか新しい恋人候補を紹介しようとしていないわよね??)
アードルフに替わる人を紹介などされても困るのだが。新しい人を紹介されるぐらいなら………レウルスがいい。
(というか、フローレンスは私とアードルフがうまくいくことを願っているのだから、恋人候補を紹介するなんてことはないわね)
.........その日の授業はディートマル国から来たという、クラシックギターの名手が特別に授業中に演奏をしてくれた。
クラシックギターの音色はとても素朴で美しかった。クラシックギターにバイオリンとチェロを加えたらどんなに素敵な三重奏になるだろう、と思わずルイーズは想像してドキドキした。
「クラシックギターは、はかない旋律にピッタリ合う音ね。思わず泣いてしまいそうになったわ」
「おいおい、今日はハンカチを用意してきているのか?」
レウルスが茶化して言う。過去に2枚ほどレウルスのハンカチを奪ったことがあるので、彼はからかっているのだ。
「あれは……奪ったのではなくてレウルスが好意で貸してくれたのでしょう?」
「そうか?1枚目のハンカチは未だに返却されてこないけどな」
「あれは記念よ」
「記念?」
「あのハンカチを見ると、フルンゼでの思い出が鮮やかによみがえるから持っていたいの」
「そんなに昔でもないだろ…」
「でも、あれからいろいろあったわ」
「......そうだな」
レウルスがルイーズの頭を撫でる。
「頭を撫でられると、レイニーさんを思い出すわ」
「なら、やめようか」
「なぜよ?」
「オレは兄貴じゃないから」
なによそれ、などと言い合っていると実に平和に感じた。
………ランチの時間となり食堂に行くと、今日もアードルフは休んでいていないと、コンラートから聞いた。
「そうなの………」
事情を知っているルイーズを含めた4人は黙る。
「ルイーズ、放課後なんだけどせっかくだから『アルチョモヴナ』って店で紹介しようと思うの」
「なんだか変わった店の名前ね」
「北方の国の人がやっているカフェだって」
「あらそうなの。楽しみ……ところで、紹介したい人って誰なの?」
「だからヒミツだってば」
相変わらず教えてくれないみたいだ。コンラートの表情を伺うが、彼もポーカーフェイスなので、よく分からない。
「オレも付き添うか?」
「ちょっとぉ。ダメだよ。レウルスは!」
「なぜだ?」
「いろいろな意味で!」
よく分からないが、レウルスがついて来ることはフローレンスが却下したのだった。
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