ジーナの声にならない叫び
「...........ねえ、本当はジーナは食事に行って部屋にはいないよね?」
耳元でアードルフがささやいた。
「........知っていたの?」
彼がジーナの不在を知ってやって来たのだと知り、少し身構える。
「うん。...........僕が怖い?」
「そういうわけじゃないけれど、その………落ち着いてね?」
「僕はルイーズの心がもっと欲しいんだ。だから、こうしてしまう」
ギュッと抱きしめられた。
(どうしよう.............アードルフが暴走している)
アードルフは、元婚約者の駆け落ち事件がかなりのトラウマになっている。だから、こうしてルイーズにたびたび触れては安心感を得ようとしてくる。
どうしようと困っていると、近くに新たな人の気配がした。
「おい、アードルフ!悪酔いしすぎだぞ!」
「……レウルス!」
なぜか、レウルスがバルコニーにいた。
「レウルスまでどうしてここに?」
「バルコニーは植栽の仕切りがあるだけで続いているからな。お前がルイーズに抱きつく姿が向こうから見えたからやって来たんだ」
「.......なんでお前、邪魔しに来るんだよ。関係ないだろ」
アードルフがレウルスに食ってかかる。
「関係なくない。お前はオレをルイーズの兄貴分だと言ったよな?兄は妹を守るもんだ。酒を飲むならオレが付き合ってやる」
「なんでお前が。野郎はいらねえよ」
「お前、酔って品が悪くなっているぞ。余計、オレが付き合わなくちゃいけないな」
「だから、なんでお前が......」
なんだか勝手に酒を飲むような話になっていた。
「......ちょっと!バルコニーで飲むつもり?」
「こいつを抱えて仕切りを越えるのは難しそうだから仕方ない」
「じゃあ、私の部屋にとりあえず入って!このままバルコニーにいたら先生たちに見つかってしまうかもしれないし」
ルイーズは、遠慮するレウルスとちょっと嬉しそうなアードルフを自分の部屋に招き入れた。
(ジーナが食事に行っていて良かったわ.......)
「もう少ししたらジーナが帰ってくるから、見つからないように部屋に戻ってね」
「嫌だよ~!せっかくならゆっくりここで飲むんだ」
アードルフはいつの間に飲み干したのか、持っていたワインボトルを空にしていた。
「アードルフは、酔ってしまったようね。顔が赤いわ」
「......バルコニーに来る前にワインを1本飲んで来たのさ。僕だって仕切りを越えてやってくるのはちょっと勇気が必要だったから」
「そこまでして訪ねて来なくても.......」
「こんな時だから酔うのさ。今の僕は君と距離を縮めたくて必死なんだ。不安なんだ僕は」
正直に己の心の内を晒すアードルフは、心なしか目が潤んで見えた。
「私はあなたを不安にさせているの......?」
アードルフの言葉についそんな言葉が漏れた。
(私がいけないということなのかしら.......)
レウルスが小さな声で話しかけてくる。
「真に受けるな。あいつは酔いに任せて情に訴えているだけだ。オレが適当に付き合って寝かしつけるから、そうしたらやつを担いで出て行くよ」
「………お願いするわ」
ルイーズはどうしたら良いのか分からず、レウルスに託すことにした。
レウルスは部屋にあるシャンパンを持ってくると、グラスに注ぎアードルフに渡す。
「ほら、飲め」
「僕だけ飲ませようという策略には乗らないぞ。お前も飲めよ」
「飲むさ」
2人はグラスを合わせると、すぐにグラスを空けた。
ルイーズは、ソワソワしながら2人を見ていた。いつジーナが戻って来るか分からない。
………2人が飲みだしてしばらく時間が経った頃、自分がベッドに座ってウトウトしていることに気が付いた。部屋にあるソファは彼らが占領している。
彼らを見ると、アードルフがソファに仰向けになって眠っていた。レウルスもテーブルに突っ伏して寝ている。
「…………ウソでしょう??」
なんと男2人が自分の部屋で酔いつぶれて眠っていたのだった。
「ジーナは??」
時計を見ると深夜1時である。そっと扉を開けて外の様子を伺うと、食堂のある方から酒に酔って盛り上がる声が聞こえてきた。
(あの声は………声楽家の先生の声だわ。遅れて到着した者同士で意気投合しているのね!)
どうもジーナを含めた侍女や侍従、先生、使用人たちで楽しい時間を過ごしているようだ。
(ハメを外しているのは生徒だけではなかったということね)
扉を締めると、仕方が無いので酔いつぶれた彼らをそのままにしてルイーズはベッドにもぐりこんだ。
「こうなったらもう知らないわ。お休みなさい」
潔く眠ったのだった。
…………翌日の早朝、まだ日が上がる時間に部屋の扉がそっと開いた。
お酒が残って顔を赤くしたジーナがおそるおそる部屋に入ると、驚きの光景を目に絶句した。
「!!!!!」
次の瞬間、叫びそうになって慌てて口を押える。
「なぜ……なぜお嬢様の部屋にアードルフ様とレウルス様が寝ているの……!」
急いでルイーズに声をかけにジーナがベッドの側に寄った。ルイーズはスヤスヤと眠っている。
「お嬢様!お嬢様!起きて下さい!これは一体どういうことなのです……!?」
「………ジーナ、おはよう。朝まで飲んでいたの?」
「そ、それは.....申し訳ございません!でもそれより、今はあれです!.....あれは一体なんなのです!?」
「………あら、まだ彼らは起きないのね」
スヤスヤ眠る彼らの寝顔は、無防備に見えた。
「なんだか、飲み足りないってねって話になってバルコニーで飲んでいたのよ。でも、いつまでもバルコニーで飲むわけにいかないでしょう?だから、仕方なく私の部屋に。..............彼らは疲れていたみたいですぐ眠ってしまったのだけど」
なにごともなかったことを強調して言う。
「そうだとしても、レディの部屋に男性が泊まるなどありえませんよ!」
「.........そういうあなたも私を置いて朝まで飲み明かすなんてあり得ないでしょ?だから、あなたのしたことと、このことは相殺しましょう」
強引に話をまとめると、ジーナはしぶしぶ了解したのだった。
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