バルコニーのルール

結局、そのままジーナに起こされることになり、アードルフとレウルスも起こした。


「ねえ、2人とも起きて!皆が起きる前にさすがに戻ってもらわないと困るわ」


ジーナが急ぎ水を用意して彼らに飲ませる。


「あー、僕、寝ちゃったんだ。ごめん」

「アードルフを寝かせて運ぶつもりが………悪い。オレも眠ってしまった」


彼らは水をガブガブと飲むと、ボサボサになった頭をかいている。


「それにしても、ルイーズの部屋でついに朝まで過ごしちゃったんだなあ」

「オレもいるけどな」

「あなたたち、変な言い方をしないで」

「事実じゃないか。こうして朝からルイーズの姿を見られる。起きたてのルイーズも可愛いね」


朝から歯の浮くようなことをアードルフが言う。


「ああ。朝日に照らされたルイーズは女神のようだな」


レウルスまでもがキザなことを言う。


「……あなたたち、変よ」

「変じゃないよ。恋する気持ちが言わせているんだよ」

「オレも事実を言っているだけだ」

「は?なんでお前まで?」


レウルスの言葉にアードルフが反応している。


「自分の好きな者を褒められて嬉しいんじゃないのか?」

「まあ、そうだけど」


なんだか変な三角関係が出来上がりつつあった。


「ねえ、それよりも早く部屋に戻って!私が廊下の様子を見るから」


ルイーズはそっと部屋の扉を開けると廊下の様子を伺う。


幸い、早朝であることもあり静かだ。


「今なら大丈夫。早く!」


アードルフとレウルスに手招きすると、彼らを廊下に出した。


「ルイーズ、また後で会おうね」


アードルフがキスしてこようとするので、手で押しのける。


「もう!余計なことをせずに速やかに部屋に戻る!」

「はいはい」

「レウルスもね。……いろいろありがとう」


お礼は彼だけに聞こえる小さな声で言うと、レウルスが微笑んだ。


………2人の男はやっと自分の部屋に戻っていったのだった。


去るレウルスはなかなかスマートに見えたけれど、テーブルに突っ伏して眠る寝顔を思い出すとおかしくなる。


彼は眉間にシワを寄せながら眠っていた。彼らしい寝方だなと思えた。


部屋で身支度を整えると、ルイーズは食堂へと向かった。明け方まで飲み会が開かれていたせいで、なんだか部屋がまだ酒臭い。使用人たちが窓を開け放って一生懸命、換気していた。


「ルイーズ、おはよう!」


フローレンスがコンラートと声をかけてきた。


「朝から仲が良いわね」

「朝だけじゃなくてずっと仲が良いわよ」

「?」


意味が分からず聞いてみると、なんと彼らは朝まで一緒に過ごしていたらしい。


「別荘に来る前に言おうと思っていたんだけど、ここの別荘って貴族たちのロマンチックな場所でもあるのよね。ほら、バルコニーが続いている造りでしょう?あれには意味があるのよ」

「どんな意味が……?」

「バルコニーごしに恋人の部屋に行けるようになっているの。カーテンが閉まっていれば“入って来ないで”という意味で、カーテンが開いていれば“ウェルカム”って意味があるのよ」

「………そんなの知らない」


そんな大事な話を聞かせてくれていないなんて!と、フローレンスに詰め寄る。


「だって~。アードルフ兄はルイーズに真剣だし、ルイーズもアードルフ兄のことを好きなんでしょ?」

「だからって!知らないと知っているとでは違うじゃないの!」

「なに怒ってるのよ。いいじゃない。どうせ、その言い方だとなにもなかったんでしょう?問題ないじゃない。アードルフ兄は恥ずかしくて話せなかっただけじゃないの?」


いや、アードルフは突撃してきたし部屋にしっかり泊まって行った、とは言えなかった。レウルスもいたし、説明するには事態が複雑すぎる。


「……そもそもジーナもいるのだから、密会だなんて無理なはずよ」

「侍女や侍従たちはここに来たら、宴会を朝までするのが習わしよ。ここってそういう意味でも皆が楽しめる場所」

「そんなバカな!」


なんてことだと額に手をやった。


(もう絶対、この別荘に誘われても来ないから!)


「………まさかだけど、生徒たちはそのことを知っているの?」

「知らないんじゃない?主に貴族しかここは利用しないし。でも、なんだかね…」


フローレンスがまわりに目をやると、至るところで新しいカップルができている気がする。あの自由な演奏会パーティーが彼らを近づけたらしい。


「ま、皆、楽しめたのだからいいじゃない」

「他人事だと思って………」

「なにを話しているの?」


身なりを整えたアードルフがやって来て声をかけてきた。明け方までだらしなく部屋で眠り込んでいた姿とは思えないビシッとした姿であった。


「アードルフ兄、おはよう。バルコニーの話、ルイーズに話してなかったんだね」

「……フローレンス、ここは黙っていよう!」

「え~、なんで?」


アードルフが焦っていた。......彼は確信犯だったのだ。わざわざワインを飲んでから訪ねたと言っていたし、彼は企んでいたのだ。


油断も隙もないとルイーズはプンプンしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る