バルコニーでの語らい
ジーナや音楽院の教師たちは、渋滞に加えて事故も起きたせいでだいぶ遅れて別荘に着いた。
彼らが到着した時には、生徒たちは盛り上がりハメを外す騒ぎとなっていたので、教師たちは別荘に着くなり彼らを指導することになった。
酒に酔って大騒ぎしていた者は教師にこっぴどく叱られ、追加の課題をこんもりと出されていた。
「大人なのに小さい子のように叱られるのが滑稽だわ」
「音楽院には少ないとはいえ、子どももいるからね。今回の演奏会旅行では遠慮してもらったけど。示しがつくように指導するのは仕方ない」
「まあ、そうね。皆いつもは真面目に頑張っているから、ハメを外したくなったのでしょう」
「ああ。......それにしてもすっかり遅くなった。ルイーズ、部屋まで送って行くよ」
「ええ。お願いするわ」
部屋の前に到着すると、名残惜しそうにアードルフがルイーズの手を握る。
「このまま一緒に過ごせればいいのな」
「……ジーナも到着したことだし、それは無理ね」
「誰かに道を封鎖させてジーナたちが来られないようにするべきだったなあ」
「もう、なにを言っているの」
引き寄せられた。
「また、明日ね。お休みのキスをしてくれない?」
「ええ」
そっとアードルフの頬にキスをすると離れた。
「……お休み」
いつもはそれじゃ物足りないなどと言うのに、今日はやたらと大人しく引き下がったな、と思った。
「文句を言わず意外に思った? このまま情熱的なキスをしたら止められなくなるからね。じゃあ、また」
手を振って去って行った。
(私、アードルフにガマンをさせてしまっているのかしら……)
そんなことを思ったが、自分の気持ちに迷いがあるうちは前に進めない。
扉を開けると、ジーナが片付けをしていた。
「お嬢様!お一人で大丈夫でしたか??」
「音楽院に行っている時とさほど変わらなかったわ。ああでも、初めて洋服をハンガーに掛けたわ。ちょっと新鮮だった」
「そうですか。お嬢様にとってはまだまだ新鮮に感じられることがたくさんあるのでしょうね」
「そうかも」
すぐにお風呂の用意をしてもらうと、浴槽に浸かった。とても気持ちがいい。
(今日の自由な演奏会は誰でも楽しめて良かったわ。あんな演奏会を私もいずれ開催してみたい)
お風呂から上がるとジーナがお手入れをしてくれる。
「ねえ、ジーナはまだ食事もしていないのじゃない?私は大丈夫だから食事をしてきて。お酒も出ているからゆっくりしてらっしゃい」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて行ってまいりますね」
ジーナは疲れと空腹ですぐに部屋を後にした。
「.......さてと、寝るにはまだちょっと元気なのよね」
本でも持って来れば良かったかなと思っていると、外が明るいことに気付いた。
「そういえば、今日は満月だったかしら?」
高台にある別荘は、まわりに空を遮るような高い建物がない。ちょっとバルコニーに出てみようと思った。
窓の鍵を開けて外に出ると、心地よい夜風が吹いている。
「....お風呂上がりだから気持ちいい」
月は思った通り、満月だった。とても美しい。
「………―ズ!ルイーズ………!」
突然、自分を呼ぶ声がして驚いた。まわりをキョロキョロとすると、隣との境が植栽で仕切られていて、そこに身を隠すようにアードルフがうずくまっている。
「アードルフ!?そこでなにをしているの!?」
「………やっぱり名残惜しくなっちゃって。ちょっとだけでも会えないかなと」
「ええ.....?ジーナがいるのよ」
彼女は食事に行ったばかりであるが、そこは伏せておいた。
「ジーナが部屋にね………じゃあさ、少しこのままここで月でも眺めようよ」
「........ほんの少しよ?」
「OK」
そう言うと、アードルフが堂々と仕切りを乗り越えてやって来た。
「......こんなふうに会っていると、ロマンチックじゃない?」
「そうね。音楽意欲が刺激されるわ」
「すぐ音楽に繋げるんだから」
アードルフはワインを持ってきていて栓を抜いている。
「ワインまで持ってきたの?」
「部屋にワインが置いてあってね。あ、僕の部屋は隣になるように替わってもらったんだ。.....ひとまず、月をつまみにワインでも飲もうよ」
「もしかして、私の部屋まで訪ねてくるつもりだった?」
「いやいやいや...........だってジーナがいるし」
「まあ、そうよね。ごめんなさい。勘ぐってしまって」
「気にしてないから大丈夫だよ」
アードルフがボトルからそのままワインをゴクリと飲んだ。ボトルをアードルフが渡してくる。
「直接ボトルから飲むの?そんなこと、したことないわ」
「なんでも冒険だよ。いつもとは違って新鮮だよ」
アードルフの言葉にルイーズもおそるおそるボトルからワインを飲んでみた。
「ぷはっ......!こんな飲み方をすると男性になったようだわ。確かに新鮮!」
「ははは」
アードルフは気分が良さそうだった。
「幸せだなあ」
「そうね。こんなに穏やかな月夜はそんな気分になるわ。........私、ちょっと肌寒いから羽織る物を持ってくるわね」
「僕が暖めるよ」
アードルフがルイーズを抱きしめる。ワインの香りが強く漂ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます