自由な時間
別荘に向かっている馬車の渋滞が起きているという。
ジーナたちが到着するまで、ずいぶんと時間がかかると連絡があった。だが、別荘ではパーティーに向けた食事の用意などが進められている。
アードルフは、そのまま準備を進めるように指示をした。
「ルイーズ、どう?」
ルイーズの部屋を訪れたアードルフは、戸口に立っていた。部屋に入るのを遠慮しているようだ。
(ふふ、アードルフったら気遣ってくれているのね)
「アードルフ、私ね、初めて自分で荷ほどきをしたのよ。ただそれだけなのに、なんだか自立したような気分に浸っていたの」
「さすが公爵令嬢様だね。お嬢様らしい発言だ」
「アードルフだってそうではないの?」
「僕は自分でやりたい方だから。......それより、せっかくだから散歩でもしにいかない?パーティーまでまだ時間があるし。皆も自由に過ごしているよ」
「ええ、そうしましょう」
荷ほどきが終わった生徒たちは、遊戯室や団らん室などで自由に過ごしているらしかった。遊戯室や団らん室の前を通ったが、レウルスの姿は見かけなかった。
(部屋で休んでいるのかしら?)
強引にここに着いて来た彼だから、側にいるつもりだと思ったのだが。ちなみに、大勢の生徒にアードルフの別荘で演奏会をやる、と話を広めたのは彼だったと友人に聞いた。
(旅行がてら演奏会を開催すると言えば、皆も参加したがるものね......強引な案だったけど、うまい案だわ)
レウルスがこんなに大胆な行動をするとは思わず驚いた。
..........外に出ると、夕暮れ前の空がとても美しかった。
「あちらはまだ明るいのに、向こう側はもう闇が迫っているわね」
「ああ。いつもなら音楽院でまだ練習している頃かな。……たまにはこうして休息するのもいいだろう?」
「ええ。新しいひらめきがありそうだわ」
「ルイーズは音楽のことをいつも考えているね。僕のことももう少し考えてくれない?今は2人きりなんだし」
アードルフに後ろから抱きしめられた。
「そ、そうだけど、どこで誰に見られているか分からないわ」
「もう夕暮れだから見えないよ。それに僕たちは恋人同士だ。こうしていてもおかしくはないよ」
「........では、少しだけね」
アードルフにキスされる。いつもより情熱的だ。
「パーティーは気軽に皆で楽しめるようにするつもり。本当は2人で過ごす方が良かったけど」
スイッチが入ったらしいアードルフが、ルイーズの身体を触る。
「あ......ダメだってば。ストップ!ねえ、もうそろそろ戻りましょう。パーティーが始まる前に着替えないといけないのだし」
パーティーは一応、ドレスコードを設けていた。アードルフが着飾った方が楽しめるだろうと言って決めたのだ。
「ドレスコードなんて設けなければ良かったよ。ドレスを着る時間がもったいない」
「ドレスアップを楽しみにしている人たちもいるのだから」
「ふうん。....ああそうだ、僕がルイーズの着替えを手伝えばいいのかな?」
「あなたは着せるよりも脱がしたいのではないの?」
「当たりだ」
(やっぱり!)
「本当に僕が着替えを手伝わなくて平気?」
「あなたは、女性にドレスなんて着せたことないでしょう?..........え、無いわよね?もしかしてあるの??」
ルイーズが聞くとアードルフが一瞬、黙る。
「アードルフはそういう経験が......」
「あのね、ルイーズ。変な想像をしないでほしいな。ルイーズだから言ったんだよ。........着替えたら迎えに行くから」
「......分かったわ」
なんだか煙に巻かれた気がしたが、アードルフはモテる男性だ。ルイーズが知らないだけで、それなりの経験があるのかもしれないと思った。
(なんだか、そんなのイヤ)
ルイーズは潔癖なところがあった。
......部屋に戻るとルイーズは着替えを始める。簡単に着られるドレスを持ってきていたので、一人でも十分着替えはできる。
メイクを直していると、扉をノックする音が聞こえた。扉を開けるとアードルフだった。シルバーのジャケットにスラックス姿のアードルフは、とてもカッコよく決まっている。
「ステキよ」
「ルイーズこそ。会場に行きたくなくなるな」
「もう。会場に行って皆にアードルフのカッコ良さを見せつけましょう」
アードルフは褒められたのでゴキゲンになった。
仲良く手をつないで会場に入ると、天井からは大きなシャンデリアがいくつも垂れ下がっていて豪華な雰囲気だ。
料理もたくさん並んでいるし、ダンスや演奏するための空間もきちんと整っている。
「すごいわ。思ったよりもとても豪華な空間ね」
「ふふ。でしょ?」
アードルフは嬉しそうに言う。
会場には生徒たちがすでに何人も集っており、食事や談笑を楽しんでいた。レウルスも仲間と楽しそうに話している。
ルイーズも、フローレンスやほかの女子生徒たちと流行りのものなどの話をしていると、自然と楽器を奏でる音が聞こえてきた。
ピアノ専攻の生徒が優雅なワルツ曲を弾いていたが、だんだんと盛り上がる曲を弾き始める。すると、ほかの生徒も次々に楽器を手にとってセッションしだした。
(さすが音楽院の生徒の集まりだわ)
皆、音楽が好きだからこそ当たり前に楽器を握っていた。歌いながら演奏をする者もいたし、かなり砕けた自由な雰囲気だ。渋滞で教師たちも遅れている。皆、自由を楽しんでいた。
(いつかの街広場の演奏会みたいだわ)
「いいね。こういうのも」
アードルフも気分良さそうにグラスを傾けている。
「ルイーズもどうぞ」
グラスを渡された。
「あ…私、お酒は控えているのよ」
「大丈夫。これはあまり強くないお酒だよ」
「そうなの?では、いただくわ」
グラスを受け取ると、アードルフと乾杯してグラスに口をつけた。
「おいしい。度数も低そうだから飲みやすいわ」
「だろ?」
そんなことを話していると、チェロの音色がしてきた。反射的にそちらの方を振り返ると、思った通り、レウルスだった。チェロを抱えるように弾く彼の姿は楽し気だ。
(チェロを弾く姿はなにも変わっていないわね)
音色に聴き入るように音を奏でていた。目を閉じて音と語り合う様子は、彼をとても魅力的に見せている。
(私はあの姿がとても好きだわ……)
チェロを奏でる姿は、迷いなく好きだと思えたのだった。
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