春休み始まる

音楽院の定期試験が終了すると、すぐに春休みに突入した。


明日からアードルフの別荘に向かうことになっている。別荘は馬車で半日ほどの距離なので、気軽な気分でいた。


「ルイーズはアードルフ兄と行くんだよね?」

「ええ。本当はフローレンスたちと一緒の馬車で行きたかったのだけど」

「アードルフ兄はルイーズと2人きりになりたいのね」

「逆にフローレンスたちが2人きりになれるように、気を使ったのかもしれないわよ?」

「え?そうかなあ」

「私はフローレンスと2人きりで嬉しいよ」

「えへへ....」


コンラートの言葉にフローレンスが照れている。フローレンスは意外と照れ屋だ。


「そちらは2人きりで大丈夫?」


コンラートに心配された。このところ、アードルフのスキンシップが増えて居心地悪そうにしているルイーズに気付いているらしい。


「ええ。ほかにも別荘に向かう馬車がたくさんいるから大胆なことはしないでしょう」

「まあそうだね」


コンラートはアードルフと同い年だが、落ち着いていて大人だ。穏やかな表情しか見たことがない。


「レウルスも来るし、演奏会は盛り上がりそうね」


フローレンスが言う。


「そうね。賑やかになるわね」


コンクールとは違って旅行を交えたちょっとした演奏旅行の雰囲気は皆をワクワクとさせた。


………別荘に向かう当日になった。アードルフと馬車から見える風景を楽しみつつ向かった。


「別荘は大変なことになっていない?こんなに大勢が来ることになると思っていなかったでしょうから」

「まあそうだね。でも、もともと王家でも貴族向けの演奏旅行を開催していたからね。慣れているんだ」

「そうなのね。……コンクールとは違って純粋に音楽を楽しめそうだわ」

「お、まるで一端の演奏家みたいなことを言うね」

「あら、どういう意味?まだまだ私のことは認められない?」

「そういうわけじゃなくて。……前から音楽に対して真面目だったけど、ルイーズはどこを目指しているんだろうって思ってる」


アードルフの言葉にルイーズも真面目な顔になる。


「アードルフはボロゴ楽団を目指しているのでしょう?私はまだこれだという目標はないけれど、新しい道が見えてきている気がしているわ」

「ボロゴは憧れだよ。本当に入れるかはまだ未知だ。ルイーズは、音楽家を目指しているってことなのかな?」

「ウイナ音楽院で学ぶならば、当たり前のことではないの?なぜ、そんなことを確認するの?」

「僕たちは、彼らとは違うからだよ」


アードルフがそんなことを言うのは意外だった。


確かに自分たちは貴族であるし、音楽のことばかりを考えているわけにはいかない立場ではある。でも、アードルフだってそれを分かっていて音楽に取り組んでいたはずだ。


「アードルフがそんなふうに言うのは意外だわ。あなたはいつだって音楽に前向きだったはずよ」

「僕は.......音楽は好きだし欠かせないものだけど、ルイーズとゆっくり過ごす時間も欲しいんだ」

「忙しい時はゆっくりできないけれど、私はどちらも大切だと思うわ。だって人が音楽を作り出すのだから」

「そっか、そうだね」


アードルフはルイーズを引き寄せると肩に頭を乗せた。甘えているようだ。


別荘へは順調に着いた。


「着いたわね」


アードルフに手を引かれて馬車を降り立つと、ほかにも馬車が着々とやって来て途端に別荘が賑やかになる。


向こうの方にはレウルスが友人たちと共に馬車を降りる様子が見えた。


別荘に入ると、大勢の使用人たちが生徒たちを部屋に案内していた。ルイーズも部屋へと案内される。部屋は1人部屋だ。


アードルフにごねられたが、正式に婚約しているわけではないのだからとルイーズが1人部屋にしたいと交渉したのだった。


(もう、アードルフったら先走り過ぎだわ)


メッツォにいる父と兄にはアードルフと交際していることは伝えている。国が離れているせいもあってきちんとアードルフを紹介できていないが、交際を認めるとは言われていた。


(認められたからといって、一緒の部屋で寝泊まりするのはちょっと違うわ)


もしも、アードルフと一緒の部屋で過ごしたした日には、すぐに彼の思うように進められてしまいそうでちょっと怖かった。


ただでさえ、アードルフはルイーズと交際していることを王にまで報告しているらしいのだ。


(はあ、いろいろな問題が出てきてはいるけど、ひとまず癒されたいわ)


とにかく、今回はリラックスして楽しみたいと思った。


......部屋に入ると、馬車で運んで来た旅行鞄を広げる。動きやすいワンピースを出すと、ハンガーに吊るした。


今までは自分で洋服をかけたことなどなかったが、今回は先にルイーズたちだけが先に着いているのもあって、自分で身の回りのことをしている。


ちなみに、侍女のジーナたちは街道が込むのを防ぐために、あとの馬車で来ることになっていた。


「..........自力で生活するとしたら、こういうことも普通にするのよね」


いつも侍女やメイドたちに囲まれた生活に慣れているルイーズにとって、一人で着替えや荷物整理をするのは新鮮だった。

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