別荘での演奏会計画

特別賞を受賞したことで、ルイーズの生活も忙しくなっていた。


ほかにもコンクールがあるので、教師たちからも積極的に受けるように勧められたのだ。


「今ならアードルフの言うことが分かるわ。適度な休息がないと息が詰まってしまうって」

「だろう?この前のコンクールから疲れが溜まっているようだし、あの計画を決行する時期じゃない?」

「あの計画?」

「別荘に行く話だよ」

「あれは別荘で演奏会を開くという話だったわよね?」

「そのつもりだったけど、休息しにいくだけでもいいかなと思って」


明るい調子でアードルフは言っているが、どういった意味で言っているのだろうと気になる。


「何人かで行くの?」

「2人がいいな」

「それはちょっと………」


ルイーズが言い淀むと、アードルフはルイーズの手を握る。


「なにか心配している?2人がイヤならフローレンスとコンラートも誘えばいい」

「それなら………」


別荘に誘われていろいろと心配してしまったが、フローレンスたちと行くならば良いと思った。


「じゃあ、春休みに行こう」


アードルフは張り切って旅行の計画を進め始めた。


ルイーズは、新たなコンクールに向けた練習や授業の課題などをこなすのに忙しかった。


…………ある日、音楽院内で久しぶりにレウルスに会った。


「ルイーズ!」

「レウルス、しばらくぶりね」


レウルスはあれからトリアの各地で演奏会を開いており、忙しくしていた。しばらく時間が経ったことで、レウルスの告白は彼の気の迷いなのではないかという気がしてきていた。


「元気にしていたか?」

「ええ。一応、特別賞を頂いたおかげでそれなりに忙しくなったわ。レウルスは演奏会に忙しいみたいね。音楽院の方は大丈夫なの?あまり来ていないみたいだけど」

「音楽院の方で融通を利かせてくれているから大丈夫だ。それよりも……ルイーズにこれを渡したかったんだ」


渡されたのは楽譜だった。


「これは?」

「今、トリアの地方都市に行くことが多いせいで、その町の音楽店で楽譜を探すようにしているんだ。その楽譜はきっとルイーズが気に入ると思う」


譜面を見てみると、優美な曲でルイーズの好きな“恋の挨拶”に似た曲だった。


「ステキな曲ね。後で弾いてみるわ」

「良かったら、一緒に弾かないか?」

「え?」


レウルスが自分から誘うなんて珍しくて思わず彼の顔を見る。


「でも、放課後はアードルフが…」

「あいつと続いているんだな」

「ええ。今度、別荘に誘われているわ」


ルイーズが言うと、レウルスの表情が変わった。


「そんなの、ダメだ」

「またそんなことを言って。一応、伝えておくけれど、フローレンスたちも一緒よ」

「フローレンスたちは恋人だ。ルイーズが思っているような、のんきなものじゃないかもしれないぞ」

「それはどういう意味?」

「ルイーズ!」


アードルフがやって来た。


「レウルス、ルイーズになんの用事?」


アードルフが警戒するようにルイーズの横に並ぶ。


「今、お前の別荘で演奏会をすると聞いた。オレも招待してくれ!アルヴィドやエトムントたちと演奏会を開きたいといっていたんだ。ちょうどいい」

「おいおい、勝手に決めるなよ。あんまり大勢だとリラックスできないだろう」

「オレがいたらリラックスできないのか?ルイーズもそう思うか?」


急に、レウルスが話を振ってくる。


「そんなことは無いと思うけれど....」

「ほら、ルイーズだっていいと言っている。お前の別荘でオレもくつろぎたい」

「はあ..........仕方ないな」


レウルスは、強引にアードルフに別荘行きの許可を取り付けた。


アードルフの別荘での演奏会の話は、なぜだかほかの生徒にも話が広まり、多くの生徒がアードルフの別荘での演奏会に参加したいと言い出した。結果的に、かなり大掛かりな演奏会を開くことになったのだった。


(アードルフは頼られると断れないものね)


もともと、アードルフは交友関係が広かった。だが、ルイーズと本当の恋人になってから彼は、彼らとの付き合いが減っていた。


だから、レウルスをキッカケに大規模な演奏会となってしまったが、また交流を再開するには丁度いいのかもしれないと思えた。


音楽院にもこの話は伝わり、どうせならばと音楽院は授業の一環として組み込むことにしたらしい。つまり、合宿授業のようなものだ。教師もきちんと派遣されるらしかった。


「こんな大掛かりになるとは。費用は音楽院が負担してくれるのは助かるけど、教師が来ることになるのは余計だな」

「先生たちが来るなら、悪いことはできないわね?」


ルイーズがからかうと、アードルフがルイーズに抱きつく。


「こういうこともやりにくいじゃないか。ルイーズとベッタリして過ごす予定だったんだけどなあ」

「ちょっと!そういうつもりなら、行かなかったかもしれないわよ?」

「そんなことを言わないでよ~」


アードルフがお茶らけて言う。でもさ....と顔を近づけてきた。


「次回は2人で行こうよ」

「そ、そうね」


真面目に言われてつい承諾した。すると、アードルフは満足したようにうなずいたのだった。


………春休みまで、バイオリン以外にもピアノや声楽、ソルフェージュなどに追われ、別荘での演奏会までの日々はあっという間に過ぎたのだった。

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