ナイスな事務担当
玄関に立っているレウルスはこちらを見ると頭を下げた。
「いろいろと手助けをしてもらった。申し訳ない」
「いいのよ!そんなこと!それよりこちらへ」
急いで居間へと案内する。
「...........豪華だな」
居間はメッツォよりも優美なトリア式インテリアであった。カーテンも波型にヒダがたくさんついていてとても豪華な雰囲気である。
「これは.........トリア式スタイルね。私も先ほど着いて見たばかりだけど、メッツォとはインテリアの種類が違うわね」
なるべくレウルスが気後れしないように、あくまでインテリアのスタイルが異なるだけで格の違いを見せつけているわけではないように伝える。
「..........無理やり連れて来られたよ」
「ごめんなさい。その、うちの事務担当が国推薦ということを強く意識したみたいで。彼らなりに気を使ったのでしょうけれど」
「……こちらとしてはテキパキと手続きを進めてもらったし、なにも言えないが」
「余計なお世話だった?..........ちなみにレウルスさんはトリア語はどのくらい話せるの?」
「迷惑ではないしありがたいと思っている。トリア語は日常会話ぐらいならできる。いつか留学しようと思っていたから勉強はしていたんだ」
「そうだったのね」
「オリビア.......ルイーズ嬢は?」
「そんなに気を使って呼ばないで。ルイーズと呼んでもらって構わないわ。 私はトリア語は昔から学んでいたから話せるの」
さりげなく自分の呼ばれ方についてお願いしてみる。
「王子の婚約者だからトリア語は堪能なんだな」
特に呼び方について反応せず返事があった。
「まあ、語学はそういう関係で得意ではあるわ。でも、ここではあまり殿下のことは考えたくないわ」
「.........すまない。もうここはトリアだったな」
トリアに来る前に、ヘンリーと結婚したくないと告白していた。
「あのレウルスさん、これからは同じ音楽院に入学するし、困ったことがあれば相談し合うことができればと思っているの」
「………ああ、困ることがあれば相談させてもらう。だが、なるべく世話にならないつもりだ」
「遠慮しないで欲しいわ」
「オレはトリアに来たからには吸収できることは全てやってみたいと思っている」
「.......分かったわ」
「これからは、フルンゼにいた時のようにお前を気に掛けてやれるとは限らない」
「分かってるわ。しばらくは、お互いに自分自身のことで精一杯になるわよね」
突き放されたみたいで少しシュンとしながら言う。
「............出発前にお前を避けてしまって悪かった」
突然、謝られた。少しビックリする。トリア留学に旅立つ前に、きちんと話したいと思っていたがお互いに忙しくて時間がとれないのだろうと思っていた。もともと、レウルスは説明上手じゃないというのも理解していたつもりである。
「避けた意識があったのね?」
「ああ。........いきなり同じ音楽院に音楽留学することになったからオレも動揺していた。経緯については兄貴から聞いていたよ。国の方針で振り回されたのだろう?なのに、オレは気が動転してうまく接することができなかった」
(無理やり付いて来たと思われていなくて良かった..........)
「私は音楽留学できたことが嬉しいの。だって、音楽にどっぷりと浸かることができるし、学ぶべきことがあるから。それに……レウルスさんもいる」
「ウイナ音楽院にはオレなどよりも優れたチェリストがたくさんいる。いつまでもオレのチェロが好きだと言っているとは限らないぞ」
レウルスがやっと表情を緩めながら言う。
「まあ、私が浮気でもすると?」
「妙な言い方をするなよ……」
レウルスは横を向いた。何となく顔が赤らんでいる気がした。
「気楽な会話ができて嬉しいわ」
「人前では改まった話し方をするぞ。お前はメッツォ国のコルネ公爵令嬢として親睦を深めるという理由で来ているのもあるのだから」
「仕方ないわね。でも、普段は気楽に話しましょうね」
「ああ。お前もオレを“レウルス”と呼べばいい。オレが気安く呼んでいるのにお前がかしこまって呼ぶのはおかしいからな」
「え?いいの?」
「なぜ、お前が気にする?いいに決まっている」
ルイーズは内心、感動した。いつもは心の中で勝手に呼んでいたが、とうとうレウルス本人から‟レウルス”と堂々と呼んでいいと許しが出たのだ。
「ちなみに、お前はここから音楽院に通うのか?」
「ねえ、‟お前”ではなく、私のことは‟ルイーズ”と呼んでと話したでしょう?きちんと名前があるのだからそう呼んでほしい」
「分かった。………ル、ルイーズはここから音楽院に通うのか?」
レウルスがとても恥ずかしそうな顔をするからルイーズも恥ずかしくなった。
「ええ。私はここから通うわ。レウルスは?」
自分の名前をそのまま呼ばれて、レウルスも恥ずかしそうである。
「オレは寮に入る。トリア語を上達させるためには寮の方がちょうどいいからな」
「そうかもしれないわね」
その後も音楽院にまつわることを話した。
話しているうちに夕方になったので、そのまま夕食に誘うと彼は承諾した。彼も着いたばかりでまだ寮の食堂を使えないようだ。
(夕食まで一緒に食べられるなんて嬉しいわ。事務担当の者たちはいい働きをしたわ。彼らにはご褒美をあげなくてはね)
ルンルン気分のルイーズであった。
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