◆第4章 留学

トリア国へ

トリア国へ向かう列車の中にいた。レウルスも同じ列車のどこかにいるはずだった。


「お嬢様、私もお嬢様について行けることが嬉しいです」


ジーナもついて来ていた。護衛も2人つけられている。


「ちょうど、秋の入学シーズンに間に合って良かったわ」

「レウルス様と同じ音楽学校に入学を許されて良かったですね。まあ、一流の音楽家を目指すとなれば、ウイナ音楽院が有名ですから同じ音楽院になることは必然でしょうけれど。知り合いがいるということは心強いですよね」

「あちらは、優秀な音楽の才を認められて留学する立場よ。私は親睦を深めるための特別入学。実力不足の私は圧倒的に不利よ」

「そんなことはございません。お嬢様の指導者は常に一流の音楽家ですし、お嬢様の実力は高く評価されていたではありませんか」

「まあ、辛口の彼らに褒められることもあったけれど.........でも、場数というか、実績が私には無いわ」

「これから作っていけばいいのですから心配されることはありませんって」

「そうね、ありがとう」


ヘンリーはルイーズをレウルスと同じ音楽院に留学させることを嫌がったが、国としては一流の音楽院に留学させたかったし、トリアでも最高の環境で留学を受け入れようという配慮があったから、レウルスと同じ音楽院で学ぶことになったのだった。成績や活動については逐一報告しなければならない。


「レウルス様と一緒にお話ししながら向かうことができれば良かったでしょうに」


ジーナはルイーズがレウルスを尊敬している人物だと思っていて、レウルスを異性として意識していることは知らない。レウルスを想う気持ちは秘められたものだった。


誰かにレウルスを想う気持ちが知られれば、引き離されるのは予想できる。ヘンリーなど、カフェでお茶をしたのと親し気に会話しただけでレウルスをルイーズから引き離そうとしたのだ。


父だっていくらポンコツ王子だと思っていても、ヘンリーがかなりの拒否反応を示すならばレウルスをルイーズから離そうと考えるだろう。でも、そんなことはさせない。


「レウルスさんは、まさか私も同じ音楽院に留学するなんて思ってもいなかっただろうし、自分と一緒にされたくないと思っているかも.........。とてもおしゃべりどころじゃないでしょう」


留学する前に練習場で会ったレウルスは、ルイーズを見るなり顔を逸らした。出発する前に少し話をしたかったのだが、バタバタとしていて叶わなかった。


(私が権力でどうにかしたのだろうと考えているかもしれないわ)


『あいつ、音楽に真剣だからさ。親睦目的で音楽院に簡単に留学できる君にもしかしたら、嫉妬しているかもしれない』


レイニーがレウルスの釣れない態度を見て、そんなことを言っていた。


(経緯についてきちんと話したいけれど........)


ちなみに、あちらでの生活は先に向かわせた事務担当を含めた使用人たちが全て整えてくれている。だから、ルイーズはすぐにでも音楽に集中できる予定だった。


(レウルスは使用人も連れて行かないみたいだし、手助けしてあげたいんだけど.....)


心を許してくれたかと思えば野良猫のように急にそっぽを向くような気難しい部分があるレウルスに、どう手助けをしたいと言えばいいか悩んだ。


レウルスを“頼む”と言われた手前、レイニーに相談してみると“自分のことは自分でやるだろうから大丈夫”と案外、サッパリした答えが返ってきた。レイニーは、ちょっと気にしてやって欲しいというつもりで“頼む”と言ったらしい。


『あいつ、人と親しくなるまで時間がかかるから、寂しそうな時は構ってやってよ。それだけだよ。オレが気にしているのはさ』


(寂しそうな時って……)


トリアまでの列車の旅は5日ほどかかる。列車の中で、偶然を装って彼に接触することはできるが、無理やり機会をつくるのもどうかと思って訪ねずにいた。その間にも列車はトリアへと向かっている。


ちなみに、列車の中で楽器を持った若者をチラホラ見かけた。きっと、同じタイミングで入学する生徒だろうと思われた。音楽院にはさまざまな国から集まってくるから、彼らが話す言語も様々である。列車は賑やかだった。


…………5日後、とうとうレウルスと接触しないままトリア国に着いた。そのまま音楽院に迎えに来ていた馬車に乗り込む。レウルスも音楽院に向かうならばと、彼の姿を探したが見つけられなかった。


仕方なく音楽院に先に向かうと、入学に必要な手続きを行った。もちろん、事務担当の使用人が全て済ませてくれるのでルイーズ自身が苦労することはない。


(私は苦労せずに済んだけど、きっとレウルスは苦労するはず。言葉もまだ完璧ではないでしょうし)


「私は屋敷に向かうけれど、あなたたちはレウルスさんを手伝ってあげて。メッツォの推薦で来ているのだから、私たちが手伝うのは当然だと言い張れば彼も断わらないでしょう」


お節介かと思ったが、彼のことが心配で事務担当たちを向かわせた。


ルイーズが屋敷へと向かうと、メイドたちが完璧に整えていたのですぐにくつろぐことができた。


少しすると事務担当の者たちが戻って来る。


「レウルス様をお連れしました」

「え?」


事務担当たちはメッツォの推薦ということを重大なことだと受け取ったらしく、なんと彼を屋敷に連れて帰って来た。


(会う予定では無かったからどうしよう!でも、話すいい機会になるわ)


焦りつつも身だしなみを整えて、急いでレウルスの元へと向かった。


玄関に行くと、気マズそうにレウルスが立っていたのだった。

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