リリアンとの争い?

控室に戻ってベールを外すと、髪の毛を梳いた。


顔を隠すために急遽用意してもらったベールは頭からスッポリ被るタイプであったので、どうしても髪の毛が乱れる。


「ジーナ、ベールを用意してくれてありがとうね。とても役立ったわ」

「いいえ、お嬢様の正体が知られたら大騒ぎになるところでしたから。本当に良かったです」

「……今やフルンゼ楽団は私の大事な居場所よ。そんな彼らの評判が上がれば嬉しいわ。皆の前でかなり褒めたからそのうち効果があるのではないかしら」

「そうすると、これからいろいろな所に呼ばれる機会が増えるということですよね?お嬢様にとってはまずくないですか?」

「そう、そこなのよね。でも、私の都合だけでフルンゼ楽団を縛るわけにはいかないし。彼らにはチャンスを掴んで欲しいの」


そんなことを話していると、扉をノックする音が聞こえた。ジーナが扉を開けると、ピンクブロンドの頭が見える。まさか……と思ったらやっぱりリリアンだった。


「ルイーズ様!お邪魔しますわね!」


リリアンがズカズカと入って来た。


「まだなにか?どうされたのです?」

「ヘンリー様はいる?」

「はい?先に戻った私が知るわけがありません」

「あの後、殿下はルイーズ様の後を追って行ったのよ。だからここにいると思ったのに!」


リリアンはルイーズのいる部屋の中を遠慮なくキョロキョロと見渡している。


(リリアン様は王女だというのに、どうしてこうも品の無い行動をとるのかしら)


自分よりも1歳年下なだけで、王女として小さい頃から教育されてきた存在だ。なのに、リリアンは奔放であった。


(ご両親に溺愛されているとは聞いていたけど、これはヒドイわ)


「本当にいないみたいね。……そういえば、ルイーズ様って本当に音楽がお好きみたいね。私はああいった伝統的な曲よりも今ドキな歌劇の曲が好きなんだけど」

「歌劇の曲もきちんと演奏されていましたよ。リリアン様は華やかな音楽がお好きだということではありませんか?」

「そうよ!静かな曲よりも明るくて華やかな曲が私にピッタリ!」

「はあ……」


音楽は自分を飾るアクセサリーではありませんよ、と言いたくなったが、面倒であったので黙る。


「ああ、あちこちヘンリー様を探していたらノドが乾いちゃった。お茶を飲ませてくれない?たまにはルイーズ様ともお茶するのも悪くないしね」


(自分の部屋でお茶を飲みなさいよ……!)


こめかみがピクピクしたが、余裕のない姿を見せるのがシャクであったので、笑顔で提案を受け入れてやることにした。曲がりなりにもリリアンは隣国の王女である。雑に扱うわけにはいかない。


ジーナにお茶の用意させている間、リリアンはソファにのけ反るように座ってくつろいでいた。


(ホント、王女様なのに下品な方ね。いつまでここにいるつもりよ......!)


「ねえ、ルイーズ様に聞きたいことがあるのだけど。ルイーズ様はヘンリー様を好き?」

「……なぜそんなことを聞かれるのです?」

「だって、婚約者というのはまわりが決めたことで、本人たちの意思とは別でしょう?私にも婚約者がいるけれど、ぜんっぜん好きじゃない。だから、留学してきたんだけどね」


彼女の言い分が本当ならば、領土争いの駆け引き云々は関係なしに留学してきたみたいだ。リリアンはイメージ通り、直感的に生きるタイプらしい。


「……そういったご事情がおありだったのですか。リリアン様は殿下をかなりお好きみたいですね?」

「分かる?」

「分かるもなにも、私の前で殿下にキスなさったじゃないですか」

「あれは身体が勝手に動いてしまったの。それで、ああ、私はヘンリー様が本当に好きなのだわと思えたわ」


(身体が勝手動いたから好きだと思った?……意味が分からないわ)


じっくり考えるタイプのルイーズには、感覚的な思考の持ち主であるリリアンの考えることはよく理解できない。


(……あ、でもレウルスに惹かれたのはある意味、直感みたいなものよね)


そんなことを考えていると、リリアンは構わず話しかけてくる。


「ルイーズ様は私がヘンリー様とキスしても文句を言わなかったじゃない。だから、好きじゃないのかなって」

「一応、嫌味は言わせて頂いておりましたよ」

「あれで?あんなもので済んじゃうもの?」


あの場でどうすれば正解だったというのだろう。幼子みたいに地団駄でも踏めというのか。


「……逆にリリアン様にお聞きしたいのですが。殿下に対する想いは本気なのですか?殿下はあなたを退けないようですから、あなたのことを悪くは思っていないとは思われますが」

「そういった回りくどい言い方するから、ルイーズ様はヘンリー様と仲良くなれないのよ」

「回りくどいって……リリアン様だって王族の方ですから物言いは注意するべきだとご存じでしょう?」

「もう、うっさい!本当に仲良くなろうと思ったら正直になるべきなの!……ということで、私はヘンリー様には正直さ100%よ!つまり大好きってこと!」


実に分かりやすい回答をしてきた。


「……そうでしょうね」


お茶を一口飲んだ。リリアンはとーっても分かりやすい。


「ルイーズ様が余裕でいられるのは、ほかに好きな人がいるからじゃないの?」


飲んでいた紅茶を噴き出しそうになった。


「ごほっ……そんな人がいるわけがないではありませんか!」

「咳き込んじゃって。当たってるんじゃないの?」

「……違います!私には音楽が!音楽があるからです!……楽器に触っていると時間が過ぎるのも忘れてしまいますわよ」

「ふうん。じゃあ、そんな可哀想なルイーズ様のために協力してあげようかな」

「協力?」

「そう!あのね……」


その時、突然、部屋の扉がバンと開いた。


「ここにいたのかっ!」


またしてもヘンリーだった。


「あら、ヘンリー様、どこに行っていたんですかぁ?」


途端にリリアンは甘えたような声を出す。


「リリアンこそ、どうしてここにいる?」

「探していたらここに辿り着いて。ノドが乾いたから一緒にお茶をしていたのですよ」

「一緒に茶だと?」

「はぁい、そうです。今、ルイーズ様と音楽を盛り上げていきましょうって話し合っていたんですよ~!」


リリアンは得意気な顔で話し出したのだった。

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