音楽庇護の提案
結局、お茶にヘンリーも加わることになった。
「音楽を盛り上げていくとはどういうことだ?」
「このメッツォの国民は音楽が好きではないですか。それにルイーズ様は泣くほど音楽が好きでいらっしゃるし、もっと演奏家を応援してあげたいと思ったんです!」
リリアンはさも良い提案をするようにニコニコと話している。
「具体的にはどう考えている?」
「えーと、それはこれから考えていきましょうって話していたんですよね?」
「........まあ」
リリアンの突然の思い付きによる発言はなかなか悪くない。と言うか、すごくイイ。
(リリアン様にしては良い案じゃない。困っている若手演奏家はまだまだたくさんいるから、支援してもらえるようになればもっと音楽が盛んになるでしょう)
「殿下、音楽家への支援はすでにされていますが、今現在、支援の対象はそこそこ名の知られた音楽家に対する者のみです。ですから、若手の演奏家……特に平民で音楽家を志す者を対象に支援を考えたらどうでしょうか?」
「さっきのフルンゼ楽団のような者たちを支援するというのか?」
「ええ、そうです」
「なぜ、そこまであの楽団に肩入れする?」
「彼らを贔屓するわけではありませんわ。ただ、いろいろな立場の人にチャンスを与えられたらより音楽が盛んになると思うのです」
「ヘンリー様、私もあの優男.........いえ、代表の方とお話しましたけど、皆さん大変なんだなぁって思いましたわ!」
一応、レイニーの話をきちんと聞いていたようである。レイニーを‟優男”というあたり、どうやらレイニーはリリアンの好みではないらしい。ガッチリとしたヘンリーのような体型の男性が元々、好みなのだろう。
(楽団のためになるなら、リリアン様をもうちょっとその気にさせておきましょうか)
「リリアン様のような可憐な方が音楽家を応援されたら、もっと音楽を志す人も増えるかもしれませんわね」
ルイーズがリリアンをおだてると、リリアンは分かりやすく笑顔になった。
「まあ、ルイーズ様って意外と話の分かる方でしたのね!冷たい方だとばかり思っていたけれど」
「リリアン様がなにもなさらなければ、冷たいと思われることは起きませんでしたわよ」
チクリと言ったが、リリアンには都合の悪いことは聞こえないらしい。ルイーズの言葉に構わず手を胸の前で組み、ヘンリーに向かっておねだりポーズをしている。
「ヘンリー様!私とルイーズ様の願いをどうか叶えて頂けませんか?」
「リリアンは隣国の王女だ。我が国のことであまり口を出すのは良くないと思うが。......だが、提案自体は悪くはないだろう。意見は理解できる」
「ならば、王様にも提案なさって下さいますね?」
リリアンがヘンリーの腕に自分の腕をからめる。またこの前みたいにキスしそうな距離感になっていた。
「リリアン、離れろ」
「ですから、そういうのは後で2人きりの時にして下さいませ」
「ルイーズ!」
こういう時、決まってヘンリーはルイーズの名前を呼ぶ。
「なんでしょう?」
「......お前は私の婚約者だということを忘れるな」
「一応、そうですわね」
ヘンリーはムッとしたようにルイーズを睨む。
「ヘンリー様、ひどい!私がいる前でそんなことをワザワザ言うのはイジワル!」
リリアンがやっとまともな言葉使いで話していたと思っていたら、もう子どもみたいな口調に戻っている。
「リリアンも甘え過ぎだ」
(へぇ、リリアン様を叱ることもあるんだ.......)
ヘンリーは居心地が悪くなったのか立ち上がった。
「もう行かれるのですかぁ?」
「ああ行く。リリアンももう戻れ」
「はぁい。では私も一緒に行きますわ。ルイーズ様、またね」
リリアンがヘンリーと共に部屋を出て行った。嵐が去ったようであった。
「ふぅ。疲れがドッと出たわ」
「..........お疲れ様でした。それにしてもリリアン様は一体何を考えていらっしゃるのでしょう?」
「リリアン様の思考は理解できないところがあるけど、音楽支援を殿下に提案してくれたのは良いことだわ」
「はい、あれはナイスな提案だと私も思いました」
平民の若手演奏家への支援が決定されれば、フルンゼ楽団に所属するような彼らも音楽を続けやすくなる。
この前、ビオラ担当のシャーロットは仕事中に腕を負傷してしばらくビオラが弾けなかった。演奏するためにはしばらく仕事を休むべきだったが、彼らは生活がかかっているから仕事を休むことはできない。平民の彼らが音楽を続けることは、簡単ではないのだ。
(コルネ公爵家でも音楽家への支援はしているけれど、それはあくまでお気に入りの楽団や演奏家だけ。自分達が知らない演奏家にもチャンスを広く与えられるようにしたいわ)
そんなことを考えながら馬車寄せまで行くと、驚くことにまだ楽団員達が楽器を運んでいた。
(まだいる!ベールが無いのに!扇で顔を隠すしかないわ)
必死に顔を扇で隠しながらどうにか馬車に乗る。馬車に乗り込むとカーテンをサッと締めた。
「楽団の皆がまだいてビックリしたわ」
「演奏会に参加していた貴族が、音楽サロンに呼ぶつもりでいろいろと声をかけていましたからね」
「誰か、私に気付いた様子はなかった?」
「大丈夫だと思いますが……」
「ふぅ、良かったわ」
ルイーズはホッとして息を吐いた。
だが、そんな彼女たちを乗せた馬車をじっと見つめている人物がいたのだった。
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