目を合わせないようしたんだけど

控室に戻ろうとしてお手洗いに寄りたくなった。


近くのお手洗いの方に向かうと、なんとレウルスがお手洗いの方面から戻ってくるではないか。


(ま、まずいわ。よりよってレウルスに会うとは.....!)


レウルスはルイーズに気付くと立ち止まり礼をした。


「先ほどは、我々の楽団の演奏を褒めて頂きましてありがとうございます。とても名誉なことだと思っております」


いつも神経質そうに眉間にシワをよせるクセは封印されていて、とても紳士的だ。


(普段と態度が違い過ぎじゃない........?)


「....心に思うことをそのまま伝えただけですから」


ベール越しとは言え、まっすぐこちらを見てくるレウルスに正体がバレないように声を高くして答えた。


「高貴な方に褒めて頂けることは、とても意味のあることです」

「高貴だなんて。人間ならば感じることは誰でも自由ではありませんか。私は、美しいものを前に身分は関係ないと思いますわ」

「...それは私も同感です」

「あなたのチェロもとても素敵でしたわよ。私、チェロの音色が好きなのです。重厚でどこか感傷的で美しいでしょう?」

「チェロの音色が好きだと言われるのはとても嬉しいです。私もチェロの音色は郷愁的で、音楽の幅を広げる魅力があると思っています」


とても真面目に音楽について話すレウルスは、やっぱり音楽を心から愛しているのだなと感じた。楽団の練習時は深い話をする暇もないので、音楽について語り合えるのが嬉しい。


「もとからチェロを専攻していたのですか?」

「いえ、もとはバイオリンを………。バイオリンは兄がすでに始めていたので、私はチェロに転向したのです。父と兄がバイオリン、母がピアノを担当していましたので、私がチェロをやれば具合が良いという理由がありまして。今では、すっかりチェロに魅了されています」

「そうなのですね。楽器との出会いはいろいろですね」

「はい、いろいろですね」


あまりレウルスと目を合わせて話すべきではないのは分かっているが、彼と話すのが楽しくてつい目を見て話してしまう。彼もいつも険しい表情とは違ってリラックスした様子に見えた。


(音楽について話す時は、とてもリラックスしているのね)


「………ルイーズ様、私のような者と長々と話していても大丈夫でしょうか?」

「あ、ついお話が楽しくて引き止めてしまいましたね。あなたも楽団の皆さんが待っているでしょう。また、あなた方の演奏を聴けるのを楽しみにしておりますわ」

「光栄です。それではここで」


レウルスは優雅にお辞儀をすると、その場を去って行った。


(レウルスはやはり素敵な人だわ。話している雰囲気も好きだし、話していてしっくりくるのよね)


ベール越しにニヤニヤとしてしまう。


(リリアン様のことでイライラしていたけど、レウルスと話せたのはとても幸せだったわ)


彼がプライベートの時に、ああして自分にいろいろと思うことを話してくれたらどんなに素敵だろうと思う。………そんなことをされたら、すぐにでもレウルスの胸に飛び込んでしまうのではないかと思えた。


(それにしても、レウルスはああやって身なりを整えると、少しくらいふっくらしていてもとても素敵だわ。紳士的な態度もとってもクールだった!)


「....はあ、ステキだったわ~」

「なにが‟素敵”、なんだ」


驚いて振り返ると、まさかのヘンリーがいた。いつからいたのか知らないがこちらを見て睨んでいる。


「殿下、いつからそこに?リリアン様と一緒では?」

「なぜ、リリアンと一緒にいると決めつける?それよりも、今のやりとりはなんだ」

「...ご覧になられていたのですか?」


廊下には大きな柱があるので姿は隠しやすい。だが、誰が王子であるヘンリーが身を潜めていると思うだろう。


「お前を追いかけて来たら話し声が聞こえたんだ。盗み見ていたわけではない」


(それを盗み見るというのよ.........)


そう心に思ってもヘンリーに気軽に言える関係ではない。


「...音楽の話をしていただけですわ」

「確かに音楽の話をしていたが、ずいぶんと楽しそうだったな」


目の前のヘンリーは明らかに不機嫌モードだ。


「それは、好きな音楽のことを話せるのはやはり嬉しいですから」

「そうだとしても、お前は男と2人きりで話すべきではない。オレの婚約者なのだからな」

「.........私、疲れておりますの。失礼致しますわ」


リリアンと目の前でキスしている姿を見せつけたくせになにを言うのだと、勝手な言い草に腹が立つ。優雅にお辞儀をすると今度こそ真っすぐ控室に向かったのだった。

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