キャラづくり
(いつもの調子で話したら正体がバレてしまうかもしれないわ。ここは、ちょっと違う人物であるように話した方がいいわね)
レイニーの前に立つルイーズはしばし、どんなキャラでいこうかと考え込んでいた。
「あの、ルイーズ様?」
「と、とーっても良かったですわ!おほほ」
ルイーズは恥ずかしいが、楽団の皆にバレるよりはマシだと思って高貴な令嬢キャラでいくことにした。扇を取り出して、視線が扇に行くようにパタパタと扇ぐ。ベールが捲れないように扇ぐのはなかなか難しかった。ついでにもう片方の手は腰に手を当てて、そちらにも目線が行くように大げさにポーズをとる。
「また近いうちにぜひ演奏をお聴きしたいわ!ホホホーッ!」
「お、お気に召して頂き光栄です」
レイニーは一瞬、ひるんだように見えたものの、スマートな仕草でペコリとお辞儀をした。さすが、レイニーはどんな相手でもそつなく対応する。
「“新しき世界”は、洗練された音で目の前にまさに新しい世界が現れたようでしたわ!素晴らしかったですわね!」
「曲名もご存じでしたか。頑張って練習してきた甲斐があります。皆も喜ぶでしょう」
「“ツキルの行進曲”も最高でしたわ!つい手拍子をしたくなりましたもの!」
自分が褒めることで彼らの評判が上がるならと、曲名もしっかりと挙げながら褒め称えた。
「音楽が本当にお好きなのですね。ぜひともこの先も我々をご贔屓にして頂ければ幸いです」
「もちろんですわ!」
レイニーと話す様子を見ていた楽団員たちはニコニコとしていた。ブラッドやクリフ、モーリス、シャーロット、ミアなど、ルイーズが大絶賛するものだから感激しているようである。ベールの隙間からチラリと彼らの嬉しそうな顔が見えた。レウルスもニヤリとしていたような気がする。
(これくらい褒めれば、まわりにも良い宣伝になったでしょう)
「では、またいずれ」
そう言ってレイニーと握手をすると、ヘンリーの元に戻った。
ヘンリーとリリアンが微妙な顔をしていた。いつものルイーズと違ったからだろう。
貴族たちからの視線も感じた。いつになくルイーズが高飛車な様子でおかしいのに、さらにはヘンリーとリリアン、ルイーズの3人が揃っているのだ。なにかひと悶着起きるのではないかと彼らは好機の目を向けている。
見世物になるつもりはないので、控室に戻ると告げて部屋を出た。ヘンリーがすぐに追いかけて来た。
「おい待て! 頭でも打ったのか?」
「はい?」
ヘンリーがまたわけのわからないことを言ってきた。
「なにがです?私は正常ですわ。...........あ、もしかして楽団員への言動のことを言われています?」
「それしかないだろう」
「あれはそうですわねえ...........愛想の良いリリアン様を見習って真似てみたのですわ。リリアン様は、殿下を喜ばせるのに長けてらっしゃいますもの」
相変わらずヘンリーの横に引っ付いて来たリリアンを見ながら皮肉交じりに説明する。
「あら、私を見習ったの?私とは似てなかったけど、クネクネしちゃって面白かったわ。ルイーズ様ってちょっとコワイ感じだからイメージが変わって良かったかもね」
(な、なんですってっ!?クネクネなんてしていないし!腰に手を当ててただけでしょう!)
リリアンはイラッとさせる言葉を吐く天才なんではと、持っていた扇子を握りしめた。これ以上握りしめたら扇子が壊れそうだ。
「ルイーズ、お前はいつもの自分でいればいい」
ヘンリーは、苦虫を噛み潰したような表情で言う。
(いつもの自分て?この方は私にどうしろと言いたいの!?)
変化が起きたのは全てのヘンリーのせいであるのに、ルイーズに変わらずにいろとはまことに勝手だと思われた。
(だけど、私のためにフルンゼ楽団を呼び寄せてくれたのよね。かなり焦ったけどナイスではあったわ)
「........殿下、本日の演奏会はとても嬉しかったです。私は彼らをとても気に入りました。また、機会があれば彼らを呼んで頂けるとありがたいですわ」
「そうか。ならば、これからはもっと宮中にくるようにしろ」
ヘンリーの言葉にリリアンがキッとなる。めちゃくちゃ睨まれた。
(睨むなら殿下を睨みなさいよ!腹立つ!)
「殿下、私は最近、音楽に真剣に取り組んでおりますの。だから、いつでもこちらに来られるわけではありませんのよ。リリアン様もいらっしゃるのだから退屈はなさらないでしょう?」
「なんだと......?」
ヘンリーの機嫌がまた悪くなるとは思ったが、この2人との会話に疲弊したルイーズはさっさと控室に逃亡したのだった。
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