第36話「暴れる力、揺れる心」



 翌日、オルディナス機関の訓練場。

高い天井から差し込む光の下で、佑真は深呼吸をして立っていた。

足元には頼もしいグレイシア、そして新たな仲間ケロマツが並んでいる。


「よし……今日はお前たちのコンビネーションを見せてもらうぞ」


 神城の号令と共に、模擬戦用のドローンが数体、訓練場に現れる。

赤いセンサーが光り、無機質な動きで佑真たちに迫る。


「グレイシア、《こおりのつぶて》!」

「グレイッ!」


 放たれた氷の弾が、正確にドローンを撃ち抜く。

相変わらずの安定感だ。


「よし、次はケロマツ。《みずでっぽう》!」

「ケロッ……ケロロロッ!」


 ケロマツの口から勢いよく水流が噴き出す。

しかしその瞬間、周囲の水蒸気が異様なほど広がり、霧のように訓練場を覆った。


「うわっ!?」「な、なんだこれ!」

見学していた裕太と綾杜が慌てる。


 次の瞬間、ケロマツの体が青白く光り、周囲の水が勝手に弾けた。

制御不能の力――まるで何かに怯え、暴れるような反応だった。



---


「ケロマツ! 落ち着け!」

佑真はすぐに駆け寄り、その小さな体を抱きしめる。


 びしょ濡れになりながらも、必死に語りかける。

「大丈夫だ……もう怖くない。お前は俺の仲間だ」


「ケロ……ケロロ……」


 徐々に震えが収まり、ケロマツは佑真の胸で目を閉じた。

その様子を神城は黙って見つめていたが、目はわずかに細められている。


「……まだ力の制御は難しいようだな。しかし、今の対応は悪くなかった」

「はい……でも、どうしてこんな……」


「理由は、いずれ分かるだろう」

神城の声は低く、意味深だった。



---


 訓練後、佑真はシャワー室で濡れた髪をタオルで拭きながら、ケロマツを見つめた。

この子は何かを抱えている。それを理解して、受け止められるのは自分だけだ。


「……一緒に、強くなろうな」

「ケロッ!」


 その小さな鳴き声に、佑真は決意を新たにした。

次の任務は、もう目の前まで迫っている――。





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