第35話「帰還、そして新たな仲間」



 雪山の朝は、静けさに包まれていた。

 白銀の世界の中で目を覚ました佑真は、腕の中の小さな温もりを確かめる。

「……ケロマツ」

「ケロッ……」


 昨夜まで震えていた小さな体は、今は安心したように丸まっている。

すぐそばでグレイシアが尻尾を揺らし、「グレイ」と誇らしげに鳴いた。

この一晩で、彼らは確かに仲間になったのだと実感する。



---


 山を下り、街に戻った佑真は一度自宅で荷物を整えると、オルディナス機関へ向かった。

扉を開くと、訓練場の端で裕太と総士、そして綾杜が談笑していた。


「おーい、佑真! ……って、うわっ、なんだその子!」裕太が飛び上がる。


「ケロマツ。雪山で震えてたんだ。助けたら……ついてくることになった」

「ケロッ!」と胸を張るように鳴くケロマツ。


 グレイシアも隣で「グレイ!」と鳴き、どこか誇らしげだ。


「二匹目か。やっと普通のトレーナーっぽくなったな」総士が肩をすくめる。

「まあ、俺はミルタンクもいるから三匹目だけどな」


「ちょ、ずるいだろ!」裕太が笑う。「でもいいなあ、カッコいいじゃんケロマツ!」



---


 そこへ、神城が静かに姿を現した。

「……雪山の件は報告を受けた。無事で何よりだ」

低い声に、場の空気が引き締まる。


「ケロマツは、もう君の仲間か?」

「はい。……でも、ちょっと不思議なんです。水しぶきを上げたり、力を抑えきれていないようで」


 神城はじっとケロマツを見つめる。

「……そうか。なら、当面は訓練で信頼関係を築くことだ」

その視線には、言葉にしない何かの懸念が宿っている気がした。



---


 訓練場を後にする頃、佑真の胸には新たな決意が生まれていた。

グレイシア、ケロマツ――どんな過去があったとしても、この子たちを守るのは自分だ。

「絶対に、一緒に強くなるぞ」


 二匹は並んで鳴いた。

「グレイ!」

「ケロッ!」


 その声は、雪山よりもずっと暖かく、まるで新しい旅の始まりを祝福しているようだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る