第30話「雪山の邂逅」



 焚き火の炎が小さく揺れる雪山の夜。

 星を見ながら語り合ううちに、佑真はつい口にしてしまった。


「……実はさ、俺、昔この山でキュレムに会ったことがあるんだ」


「えっ、マジで!?」

 裕太が目を見開く。

「伝説のポケモンだろ、キュレムって!?」


「うん。子どもの頃、雪崩に巻き込まれそうになったとき、助けてくれたんだ。

 ……今の俺がいるのは、あのときのキュレムのおかげだと思ってる」


「……やっべぇ、めっちゃロマンあるじゃん!」

 裕太の瞳が一気に輝く。

「よし、今から探しに行こうぜ!」


「はぁ!? 今!? 夜だぞ!?」


「だって伝説だぞ!? 一回でいいから生で見てみたいんだよ!」


 止める間もなく、裕太はライチュウを連れて雪の中へ走り出した。

 佑真は頭を抱えながらも、慌てて後を追う。



---


 月明かりだけを頼りに、二人は雪山を駆ける。

 しんとした空気の中、時折吹きつける風が頬を刺すように冷たい。


「さむっ……! なんでこんな無茶するんだよ、裕太……!」


「はは……でも、ワクワクすんだろ!?」


 そのときだった。

 小さな影が雪の中で震えているのが見えた。


「……あれは……ケロマツ!?」


 青い体を丸め、必死に震えている。

 今にも凍えてしまいそうなその姿を見て、佑真は迷わず駆け寄った。


「大丈夫か……! よし、ここは――」


 ケロマツを抱きかかえ、近くの洞窟に飛び込む。

 裕太が手際よく枝を集め、焚き火を起こした。


「ライチュウ、少し電気を分けてやれ」

「ライッ!」


 ポッと温かい炎が生まれ、洞窟の中に光が満ちる。

 ケロマツの体温がゆっくり戻り、弱々しく「ケロ……」と鳴いた。



---


「ふぅ……よかった……」


「にしても、この洞窟……なんか広くね?」

 裕太が奥を覗き込み、首を傾げる。


 そのとき――。


 ゴォォォォ……という低く重い呼吸音が洞窟の奥から響いた。

 まるで大地そのものが息をしているような、深い音。


「……今の、なに?」

「グレイ……」


 グレイシアが耳を伏せ、身を寄せる。

 嫌でも思い出す、幼いころの記憶――。


 佑真はゆっくりと、奥の闇に目を凝らした。


 白い息とともに、巨大な影が動いた。

 鋭い氷の翼、銀色の鱗。

 瞳がゆっくりと開き、蒼白の光が洞窟を照らす。


「……キュレム……!」


 三度目の邂逅。

 どうして、こんなにも運命のように巡り会うのか――。


 凍てつく空気の中で、キュレムはただ静かに、二人と一匹を見つめていた。




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