第29話「雪山の星空」


 冷たい風が頬を打ち、雪の粒がきらきらと舞う。

 佑真は息を吐きながら、足元を慎重に踏みしめた。


「……やっぱり、雪山は落ち着くな」

「グレイッ」


 グレイシアが白銀の毛を揺らしながら、楽しそうに雪の中を駆ける。

 ここは、幼いころに何度も遊びに来た山。

 あのとき、キュレムに命を救われた思い出の場所でもある。


(メガシンカ……そして、エンゲージギアとの同時発動……)


 カルネの戦いを思い出す。

 もし自分もあの領域に届けば、ノクス団の脅威にも立ち向かえるかもしれない。


「グレイシア、今日はここで泊まり込みだ。

 一晩かけて、俺たちの可能性を探ろう」


「グレイ!」



---


 夜になり、雪山は静寂に包まれた。

 焚き火を囲み、星空を見上げながらグレイシアの毛並みを撫でる。

 吐く息が白く揺れ、遠くでフクロウポケモンの鳴き声が響く。


「……この星の下で、いつか俺たちも――」


「おーい、佑真ー!」


「……えっ?」

 思わず立ち上がると、雪の斜面をライトで照らしながら駆けてくる人影。


「……裕太!?」


「おう、やっぱここだったか!」

 息を切らしながら裕太が駆け寄ってきた。

 ライチュウも肩に乗って「ライ!」と元気に鳴く。


「な、なんでここに……? 二匹目のポケモン探しに行ったんじゃ……」


「はは、半分はそうだけどよ」

 裕太は雪に腰を下ろし、焚き火に手をかざす。

「お前が気になってよ。最近ずっと考え込んでただろ? だから付いてきた」



---


「……実は、メガシンカの可能性を探してたんだ」

 佑真は星空を見上げながら言った。

「カルネさんみたいに、グレイシアをメガシンカさせながらエンゲージできたら、もっと強くなれるんじゃないかって」


「なるほどなぁ……」

 裕太はしみじみと頷く。

「オレもさ、ライチュウがメガシンカできたら、一緒に戦えるのかなーって考えるんだよな」


「裕太も……?」


「おう。ライチュウとはもう家族だからな」

 裕太は肩のライチュウを撫でる。

 その瞳は、焚き火の光を反射して優しく輝いていた。



---


「……ライチュウとは、いつ出会ったんだ?」

 佑真が尋ねると、裕太は少し懐かしそうに目を細めた。


「小学生の頃だな。初めて出会ったのは、近所の森で迷子になってたピカチュウだった」


「ピカチュウだったのか」


「ああ。最初は全然懐いてくれなくて、よく電気ショック食らったよ」

 裕太は笑う。

「でも、ある日、雨の中でオレを庇ってくれたんだ。あれで完全に心が繋がった気がする」


 ライチュウが「ライ……」と優しく鳴き、裕太の肩に頬を寄せる。

 その仕草に、焚き火の温もりとは違う暖かさを感じた。



---


「……やっぱり、強くなるにはこういう絆が大事なんだな」


「そうだな。だからこそ、二匹目を捕まえても、焦らずにちゃんと向き合えよ」

 裕太は笑う。

「グレイシアが相棒だって気持ちは、絶対忘れんなよ」


「……ああ、わかってる」


 星空の下、吐く息が白く揺れる。

 焚き火の炎と仲間の笑顔に包まれながら、佑真は静かに決意した。


(この絆を力に変える……必ず、俺たちも新しい領域に辿り着く)




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