第28話「二匹目の選択」


 朝の教室は、いつもより少し明るく感じた。

 昨日までの緊張感が嘘のように、窓から差し込む陽光が机の上を照らす。


 休み時間。佑真は、いつもの仲間たちと机を囲んでいた。

 総士は相変わらず弁当をのんびり食べ、裕太はライチュウを膝に乗せてパンを頬張っている。

 綾杜は窓際で静かに本を読みながら、ニンフィアのリボンを優しく整えていた。


「そういやさ、佑真」

 口いっぱいにパンを詰めながら、裕太がニヤリと笑う。

「お前、まだグレイシアしか持ってないよな?」


「え……あ、うん」


「普通、もう二匹目くらい捕まえてるだろ。オレも総士も綾杜も二匹はいるし」

 裕太は肩のライチュウを撫でる。

「ほら、デンリュウとライチュウで二枚看板よ!」


 総士も頷く。

「俺もジュカインとミルタンク。タイプも役割も分けたほうが、戦いは安定する」


「佑真くんは、二匹目……考えてないの?」

 本を閉じた綾杜が、興味深そうに首を傾げる。

 ニンフィアが「ニン?」と同じように首を傾げた。



---


「……全く、考えたこともなかったな」

 思わず苦笑がこぼれる。


 佑真にとって、ポケモンはずっとグレイシア――かつてのイーブイだけだった。

 幼いころから一緒に雪山を駆け、笑い、泣いた相棒。

 それだけで十分だと思っていた。


「でも、戦いが本格的になれば二匹目は必要になるぞ」

 総士が箸を置いて言う。

「単純に、カバー範囲も増えるし、連戦もできる」


「そうそう、あと可愛さも倍だぜ!」裕太がにやにやしながら付け加える。

「ほら、俺のライチュウとデンリュウ、最強にかわいくね?」


「いや……かわいい基準は知らんけど……」

 佑真は苦笑するしかなかった。



---


(……二匹目、か)


 窓の外でグレイシアが、校庭の日陰で気持ちよさそうに横になっている。

 その穏やかな姿を見ていると、無理に増やす必要があるのかと迷いが生まれる。


 綾杜が静かに言った。

「でも、佑真くんらしいよね。グレイシアへの想いが強いから、他のポケモンを考える余裕がなかったんだと思う」


「……まぁ、そうかもな」


 でも、心のどこかでわかっていた。

 ノクス団との戦いは、もう一匹の力が必要になる。

 それは、カルネの圧倒的な戦いを見たときにも痛感したことだった。



---


「……ちょっと考えてみるよ、二匹目」

 佑真は静かに呟いた。


「おっ、やっとその気になったか!」裕太が満面の笑みを浮かべる。

「捕獲行くときは声かけろよ。俺も付き合うからな!」


「俺もだ。捕まえるなら相棒との相性も考えた方がいい」

 総士の言葉に、グレイシアが窓の外で「グレイ」と短く鳴いた。

 まるで、「どんな仲間でも受け入れるよ」と言っているように感じる。


(……二匹目。どんなポケモンが、俺とグレイシアに合うんだろう)


 考えれば考えるほど、心の中にわくわくと不安が同時に膨らんでいく。

 昼休みの教室は穏やかだったが、心の奥では次の一歩に向けた小さな炎が灯り始めていた。



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